相続
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
法令情報に関する注意:この項目は特に記述がない限り、日本の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律の専門家にご相談下さい。免責事項もお読み下さい。 |
相続(そうぞく)とは、自然人の財産などの様々な権利・義務を他の自然人が包括的に承継すること。一般的には、自然人の死亡を原因とするものを相続と称することが多いが、死亡を原因としない生前相続の制度(日本国憲法が施行される前の日本における家督相続は、死亡を原因とする場合もしない場合も含む)も存在する。
民法の第5編で規定されている。
目次 |
[編集] 財産の承継形態
相続原因が発生した場合(死亡など)に被相続人から相続人に財産が移転する形態としては、包括承継主義と清算主義の形態がある。
[編集] 包括承継主義
相続原因の発生と同時に、被相続人と利害を有する者との間で何らの清算手続を経ずに、被相続人の財産が包括的に相続人に移転する形態である。この制度では、被相続人の財産は債務も含めて一切が承継されるため、債務の相続を回避するためには別の手続(相続放棄、限定承認)が必要になる。日本、ドイツなどで採用されている形態である。
もっとも、この場合でも、限定承認の制度が採用されている場合は、所定の手続を経れば清算主義に近い形態になる。
[編集] 清算主義
この形態では、相続原因が発生した場合、相続財産は直ちに被相続人に承継されず、一旦死者の人格代表者(personal representative)に帰属させ管理させる。そして、この者が被相続人の利害関係人との間で財産関係の清算をし、その結果プラスの財産が残る場合はそれを相続人が承継する。英米で採用されている形態である。
包括承継主義と異なり、建前上は相続人が被相続人の債務を承継することはない。もっとも、相続財産が小額の場合は費用倒れになること、多額の場合でも清算手続を経ない方が経済的に望ましい場合もあるため、現実には清算手続を経ずに債務も含めてそのまま相続人が財産を承継する便法が採られることもある。
[編集] 民法での相続
この節では、日本の現行民法における相続制度を解説する。条名は、特に断りない限り民法のものである。
[編集] 相続の開始
相続は、死亡によって開始する(882条。なお家庭裁判所が失踪宣告をしたときは、一定の時に死亡したものとみなされる(31条)ため、このときも相続が開始する)。
相続人は、相続開始の時(被相続人の死亡の時)から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(896条)。
- 相続回復請求権(884条)
- 相続回復の請求権は、本来相続人でない者(相続欠格者・子でないのに戸籍上子となっている者)が、遺産を管理、処分を行っている場合相続人が遺産を取り戻す権利のこと。
- 相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、消滅する。
相続の「開始」という用語を用いるが、いわば相続の開始の瞬間に被相続人の財産上の権利義務は相続人に承継されるのであり、時間の経過とともに次第に権利義務が移転するという性格のものではない。したがって、「相続の開始」と対となる概念(「相続の終了」?)は存在しない。
[編集] 相続人
被相続人の財産上の地位を承継する者のことを相続人(そうぞくにん)という。またこれに対して相続される財産、権利、法律関係の旧主体を被相続人という。相続開始前には,推定相続人といい、被相続人の死亡による相続開始によって確定する。相続人となる者は,被相続人の子・直系尊属・兄弟姉妹及び配偶者である。
[編集] 相続順位
- 被相続人の子
- 被相続人の直系尊属
- 被相続人の兄弟姉妹
被相続人の配偶者は、上記の者と同順位で常に相続人となる。
[編集] 欠格
- 相続欠格(891条)
- 被相続人や他の相続人を死亡させる、遺言書を破棄、捏造するような重大な不正行為をした場合に相続人としての資格を失なう。
[編集] 廃除
- 相続人の廃除(892条)
- 被相続人に対し、虐待侮辱や著しい非行があった場合、被相続人が(または遺言により)家庭裁判所に申し立てる事によって、その相続権を喪失させるもので、対象者は遺留分を有する推定相続人に限られる。
- 遺言による申し立ても可能である。
- この制度を利用すると、遺言によりある相続人に対し遺留分以下の配分を行なうことが可能である。
- 自分の意に沿わない結婚を行なったというような理由では廃除は認められない。
[編集] 代襲相続
相続の開始以前に相続人の死亡、相続人の欠格・廃除によって相続権を失った場合、その相続人の直系卑属が相続人に代わって相続する。相続人に代わって相続することを代襲相続と言い、代襲相続する人を代襲者と言う。相続を放棄した場合は代襲相続は発生しない。
- 相続人が子の場合 - 代襲者は孫、曾孫、玄孫と続く
- 相続人が兄弟姉妹の場合 - 代襲者は甥、姪まで
[編集] 相続の効果
[編集] 相続分
- 法定相続分(900条)
- 指定相続分(902条)
- 被相続人は、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
- 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、法定相続分の規定により定まる。
- 上記のように遺言により相続分の指定・指定委託をした場合でも、消極財産は指定相続分によらず法定相続分に応じて分割されるという説が有力である。これについて大審院決定昭和5年12月4日は、「…金銭債務のその他可分債務については各自負担し平等の割合において債務を負担するものにして…」と述べている。最高裁の判例は見当たらないものの基本的にこの流れは保たれていると見てよく、下級審においても、消極財産は法定相続分に応じて分割されるから遺産分割の対象としなくて差し支えない旨の裁判例がある(福岡高決平4・12・25判タ826・259)。
- 相続分の取戻権(905条)
遺言がない場合は法定相続分によることとなり、具体的には次の通りとなる。
順位 | 相続人 | 相続分(遺留分) | ||
---|---|---|---|---|
配偶者 | 他の親族 | 配偶者 | 他の親族 | |
1位 | 有 | 子 | 1/2(1/4) | 1/2(1/4) |
2位 | 有 | 直系尊属 | 2/3(1/3) | 1/3(1/6) |
3位 | 有 | 兄弟姉妹 | 3/4(1/2) | 1/4(無) |
4位 | 有 | 無 | 全部(1/2) | - |
5位 | 無 | 子 | - | 全部(1/2) |
6位 | 無 | 直系尊属 | - | 全部(1/3) |
7位 | 無 | 兄弟姉妹 | - | 全部(無) |
- ※他の親族の該当者が複数存在する場合は相続分の中から均等分にする。
- ※非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の二分の一とする。
- ※最高裁判所は2003年(平成15年)3月31日に、婚外子(非嫡出子)の相続分について、「本件規定が極めて違憲の疑いの濃いものである……相続分を同等にする方向での法改正が立法府により可及的速やかになされることを強く期待するものである。」という、付言判決を下している。
- ※特別受益の持戻し(903条)、寄与分(904条の2)の制度がある。後者は1980年の民法改正で設けられたものである。
[編集] 遺産分割
- 遺言による分割の方法の指定(908条)
- 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
- 遺産の分割の効力(909条)
- 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
[編集] 承認及び放棄
[編集] 承認
[編集] 放棄
相続財産が債務超過である可能性が高い場合や、一部の相続人に相続財産を集中させたい場合などに、相続放棄が行われる。
- 期間制限(915条1項)
- 自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内(家裁に請求して伸長することができる)
- 放棄の方式(938条)
- 家庭裁判所に申述する。
- 放棄の効力(939条)
- 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされる。
[編集] 財産分離
相続財産と相続人の財産がごちゃまぜにならないように分離、管理、清算する手続のこと。941条以下に規定されているものの、ほとんど利用されていない。これは、相続財産・相続人に破産原因があれば破産申立てが可能であることによると思われる。