無名スカウトの善行
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無名スカウトの善行(むめいスカウトのぜんこう、Unknown Scout Story)は、ボーイスカウト運動がイギリスからアメリカ合衆国に広がるきっかけとなったエピソードである。
1909年秋のロンドンで、シカゴからきた出版業者ウィリアム・ボイス(William D. Boyce)は、ロンドン名物の濃霧のせいもあり、道に迷って困り果てていた。
その時、霧の中からひとりの少年が近づいてきて、「何かお役に立つことがありますか。」と声をかけた。 ボイスが、行き先がわからないことを伝えると、少年はボイスの荷物を手にとり、先にたってボイスを案内した。彼の案内によって無事目的地に着いたボイスは、習慣的にチップをあげようとポケットに手を入れた。
しかし、少年はさっと敬礼をして、「私はボーイスカウトです。私に一日一善をさせてくださってありがとう。スカウトは、他の人を助けることでお礼はもらいません。」と言い、ボイスが少年の名前を聞く前に、ニッコリ笑って立ち去った。
仕事を済ませた後、イギリスのボーイスカウト本部でスカウト活動のことを調べ、またスカウト活動に関する書籍を集めたボイスは、アメリカに戻ってから当時の大統領ウィリアム・H・タフト(第27代)などにこのことを話した。これがきっかけになり、1910年2月8日にアメリカのボーイスカウト運動が発足することとなった。
15年後、アメリカのスカウトは100万人を越し、第一の功労者としてこの少年に功労賞(シルバー・バッファロー章)を贈ろうということになった。しかし、この少年がだれだったのか、アメリカとイギリスのスカウトたちによる調査にも関わらず、わからなかった。
そこでアメリカのスカウトたちは、アメリカのスカウト功労章であるバッファローの姿の銅像を作って贈ることとした。そこには「日々の善行を努めんとする一少年の忠実が、北米合衆国にボーイスカウト運動を起こさせた。名の知れざる少年のために」と刻まれていた。
1926年6月4日、ギルウェル指導者訓練所でこの銅像の贈呈式が行われ、当時の英国皇太子プリンス・オブ・ウェールズがスカウト制服を着用してこれを受領した。