洪水はわが魂に及び
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「洪水はわが魂に及び」は大江健三郎による純文学巨編。野間文芸賞受賞。個人的な体験からピンチランナー調書に至るまでの作品群のうちの一つで、息子の大江光氏の影響を受けた作品となっている。
主人公の大木勇魚(おおきいさな)の息子のジンは、医師に白痴と診断された子供である。ジンは少なくとも五十の鳥の声を聞き分ける事が出来、―センダイムシクイ、ですよ。といって報告をする習性があるが、この特徴は大江光氏の幼少時の癖である。
[編集] 梗概
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
大木勇魚は知恵遅れのジンと共に、東京郊外の核避難所跡に立て籠もり、「樹木の魂」「鯨の魂」と交感する。
勇魚は「自由航海団」の若者達に出会い、自ら反社会的集団となって自滅へ向かう。「自由航海団」のリーダーである、喬木は、自由航海団は来る大地震による東京崩壊を逃れる為に予め海上に船で出る目的を持った集団だと語る。
この「自由航海団」の主要メムバーは社会と巧く調和できなかった人物である。勇魚は、自分が妻の父である「怪」(け)の個人秘書であった時に犯した罪を「自由航海団」のメムバーに打ち明けたことでメムバーに打ち解け、核避難所跡をアジトとする。
リンチ、殺人、強姦…と「自由航海団」の行為が社会に露呈し、反社会的集団と見なされて結果的に機動隊に包囲されるに至る、自滅の一途を辿る時、勇魚はジン、ドクター、伊奈子、喬木を核避難所から出す。
遂に勇魚は樹木や鯨の代理人であったと思っていた自分が、樹木や鯨を殺さんと謀る人々と同じ側の人間であった事を悟る。機動隊の放水で水で満たされる核避難所の中で勇魚は「樹木の魂」と「鯨の魂」に最後の挨拶を送る。「すべてよし!」
[編集] 出版
『洪水はわが魂に及び』(新潮文庫)(上・下巻) ISBN 4-10-112612-7, ISBN 4-10-112613-5