医薬情報担当者
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
医薬情報担当者(いやくじょうほうたんとうしゃ、英語名Medical Representative、以下MRと略す)とは、医薬品の適正な使用に資するために、医薬関係者を訪問すること等により適正使用情報を提供し、収集することを主な業務として行う者のことを指す。
多くのMRは製薬会社に所属し、自社の医薬品情報を医師をはじめとする医療従事者に提供し、副作用情報を収集することを主な業務としている。
かつてはプロパーと呼ばれていた。
[編集] MRの概要
現在の日本のMRの総数は約6万人強と推定されており、この人数は医薬品最先進国であるアメリカ合衆国よりも多いとされている。
これは、医療用医薬品が鋭い切れ味を示し、著明な効果を示す反面、それに比例した強い副作用を持つ2面性がある事と関連している。
各種医薬品の副作用情報、適正使用の提示、あるいは効能効果といった情報は、たった1つの医療用医薬品においてすら膨大な情報となるため、現在数十万とも言われる医薬品の適正使用情報を提供するためには、上述のような数万人規模のMRが必要であるとされる。
また、大衆薬(一般用医薬品)および医薬部外品はMRの情報提供の対象外とされる。
現在、日本のMRの大部分は製薬企業に所属しているが、製薬企業のプロジェクトごとに期間を限定して派遣される、CMR(派遣MRとも呼ぶ)も存在する。
[編集] MRの歴史
昭和40年代から50年代にかけて、医薬品市場は過度の添付販売や景品販売、あるいは巨額の接待攻勢が行われ、熾烈なシェア争いが繰り返されていた。そのため、医薬品の本来の品質・有効性・安全性とは無関係に薬が処方されてしまう悪弊が時として起こり、結果、他業種から見ても異質な業界として世間からの批判が繰り返されていた。
この悪弊は、MRに価格決定権があった事に起因すると言われている。
これらは薬の倫理を重んじるべき製薬企業が、あまりにも企業の論理に走りすぎた結果と批判され、1976年には「倫理コード」を、1984年には日本製薬団体連合会(日薬連)が「製薬企業倫理綱領」を定め、歯止めを掛けようとしていたが、遵守率は低く、その思惑とは乖離した状況が続いていた。
しかし、1991年に改正された独占禁止法の施行により、MRの価格決定権が禁止され、流通と医療機関との自主性によって価格が決定される仕組みへと業界のシステムが変わった。
この事が業界の商慣行の大幅な修正へとつながり、日本製薬工業協会(製薬協)は自主規制のルール作成に取り組み、1993年、製薬企業の行動指針となる医療用医薬品プロモーションコードを作成した。
これにより、従来プロパーと呼ばれていた製薬企業の営業は再構成を余儀なくされ、MRとして再スタートを切ることになった。
プロモーションコードの内容は、具体的には、
- 自社製品の添付文書に関する知識はもとより、その根拠となる医学的・薬学的知識の習得に努め、かつ、それを正しく提供できる能力を養う。
- 製薬企業は、直接であれ間接であれ、医薬品の適正使用に影響を与えるおそれのある金銭類を医療機関等に提供しない。
- 製薬企業は、医薬品の適正使用に影響を与えるおそれのある物品や、医薬品の品位を汚すような物品を医療担当者等に提供しない。
- 効能・効果、用法・用量等の情報は、医薬品としての承認を受けた範囲内のものを、有効性と安全性に偏りなく公平に提供する。
- 関係法規と自主規制を遵守し、医薬情報担当者として良識ある行動をする。
等である。
また、1996年には「製薬協企業行動憲章」が制定され、企業の社会的責任を中心に、細かく倫理面での意識改革を促し、さらに2001年には企業の法令遵守とリスクマネジメントを強化するために、「製薬協コンプライアンス・プログラム・ガイドライン」を制定した。
これらの数度に渡る自主ルールの制定の結果、過度の添付販売や景品販売および巨額の接待攻勢は抑制され、公正競争規約も絡んで、現在ではこれらの行為を行うとMR個人だけではなく、所属する製薬企業も罰則等のペナルティを受けることとなっている。
また、医療業界の再編の進む昨今、良質なMRが製薬企業の評価にもつながることから、製薬企業各社はMRの教育や質の向上にも注力し、情報提供での優劣を競っている。
[編集] MR認定試験
旧来プロパーと呼称されていた製薬企業の営業部隊は、1993年の製薬協の決定によって、「MR」と呼称されるようになった。
そして、1997年には、医療知識の向上と良質なMRの育成に資する事を目的として、MR認定試験制度が導入された。
MR認定試験は、業界の自主認定試験であり、国家検定や公的試験とは一線を画する。その意味で医師免許や薬剤師免許とは異なり、MR認定がないと営業ができないわけではない。
しかし、近年ではMR認定証のない営業の訪問を禁止する医療機関も出始めており、製薬企業の営業として活動する以上、取得は必須の試験とされており、実際に試験の合格率は80%にも上る。
なお、MR認定の有効期間は5年間となっている。