制限行為能力者
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制限行為能力者(せいげんこういのうりょくしゃ)とは、単独では完全に有効な法律行為をすることができない者(行為能力のない者)のことをいう。具体的には、未成年者、成年被後見人、被保佐人、一部の被補助人を指す。
日本における同種の法律用語としては、無能力者又は行為無能力者という用語が用いられていた。しかし、禁治産や準禁治産という言葉はあまり良いイメージではないので、この制度に代わるものとして2000年4月から導入された成年後見制度の下で、制限能力者と表現が改められた。さらに民法の口語化を主な目的とする民法の一部改正法の施行により、2005年4月から更に冒頭に掲げた表現に改められている。また、この民法の改正に合わせて「任意後見契約に関する法律」が施行され、任意後見人の制度が発足した。同時に、「後見登記等に関する法律」により、後見、補佐及び補助に関する登記、任意後見契約に関する登記がされることとなった。
制限行為能力者の行為は取り消されることがあり、そのため、その行為の相手方は不安定な立場に置かれることになる。そこで、次の場合には追認したものとして制限行為能力者の相手方を保護する。
- 制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者)となった後、その者に対し1ヶ月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができ、そのものがその期間内に確答を発しない時は、その行為を追認したものとみなされる(民法第20条第1項)。
- 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人、又は補助人に対し、その権限内の行為について1ヶ月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができ、その者がその期間内に確答を発しない時は、その行為を追認したものとみなされる(民法第20条第2項)。
但し、次の場合は、取り消したものとみなされる。
- 特別な方式を要する行為については、上記の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しない時は、その行為を取り消したものとみなされる(民法第20条第3項)。
- 制限行為能力者の相手方が、被保佐人又は被補助人に対して、その行為について1ヶ月以上の期間を定めて、その期間内に、その保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができ、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しない時は、その行為を追取り消したものとみなされる(民法第20条第4項)。
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[編集] 成年被後見人
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者として、後見開始の審判を受けた者のことをいう(b:民法第7条、b:民法第8条)。成年後見制度を導入する前の「禁治産者」に相当する。
成年被後見人には成年後見人が付され(民法8条)、成年後見人は、成年被後見人の財産に関する法律行為につき成年被後見人の法定代理人としての地位を有する(民法859条1項)。
成年被後見人が成年後見人の代理によらず単独で行った法律行為については、事理弁識能力を欠いた常況で行われた行為であるため、取消しすることができる。ただし、成年被後見人の自己決定の尊重の観点から、問題となる法律行為が「日用品の購入その他日常生活に関する行為」である場合は取り消すことができない(b:民法第9条)。
[編集] 被保佐人
精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者として、保佐開始の審判を受けた者のことをいう(民法11条、12条)。成年後見制度を導入する前の「準禁治産者」に相当するが、準禁治産とは異なり浪費は原因とされていない。
被保佐人には保佐人が付されるが、保佐人は成年後見人と異なり、原則として法定代理人としての地位を有しない。ただし、被保佐人の同意がある場合は、家庭裁判所の審判により、保佐人に対し特定の法律行為について代理権を付与することができる(その結果、代理権の範囲が特定された法定代理人となる)。
被保佐人がb:民法第13条1項に列挙の行為や家庭裁判所により追加された行為をする場合は、保佐人の同意が要求され、同意を得ることなくこれらの法律行為をした場合は、取り消すことが出来る。
[編集] 被補助人
精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者として、補助開始の審判を受けた者のことをいう(民法15条1項、16条)。
被補助人には補助人が付されるが、本人には一定程度の判断能力があることに鑑み、家庭裁判所による補助開始の審判には本人の同意が必要とされる。また、補助開始の審判と同時に被補助人の同意を要件に以下の一方又は双方の審判がされる。
以上の審判により補助人の同意を要するとされた法律行為を被補助人が同意を得ずに行った場合は、当該法律行為を取り消すことが出来る。
[編集] 未成年者
未成年者とは、制限行為能力者という概念との関係では、成年(20歳)に達しない者のことをいう(民法4条の反対解釈)。ただし、未成年者が婚姻をした場合は、20歳に満たない場合でも成年に達したものとみなされる(民法第753条)。
未成年者の法定代理人は、普通は親である(親権者)が、親権者と利益が相反する行為については家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければならない(民法第826条)。親権者になり得る者がいない場合は、未成年後見人が選任される(民法第839条、第840条)。
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に利益を得たり、義務を免れる法律行為については同意を得なくともよい(民法第5条第1項)。 未成年者が法定代理人である親権者・特別代理人・未成年後見人の代理によらず単独で行った法律行為については、取消しすることができる(民法第5条第2項)。ただし、法定代理人が処分を許した財産については、その目的の範囲内で取引した場合は取り消すことができない(民法第5条第3項)。
未成年者が他人に損害を加えた場合において、事故の行為の責任を弁識するに足る知能を備えていない時は、その行為について賠償責任を負わない(民法第712条)が、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は賠償責任を負う(民法第714条)。