仮想粒子
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仮想粒子(かそうりゅうし)とは、普通の量子(素粒子)と実質的には同じものであるが、実験的に個別に計測されることがないもの。たとえば、普通の電子は実験的に個別に計測されるが、仮想粒子としての電子は実験的に個別に計測されることがない。
歴史的に見ると、仮想粒子は、(計算上で存在するだけであって)物質として実在することはない、と見なされた。それゆえ「仮想粒子」という名称が付けられた。
たとえば、真空中で対生成する「電子と陽電子」がある。これは、計算上では存在しているはずなのだが、実際には観測されていなかった。そこで、「観測されないものは存在しない(明白に存在するとは言えない)」という解釈(コペンハーゲン解釈)により、対生成する「電子と陽電子」は「実在しない」と見なされてきた。
ところが、後年、仮想粒子は、単なる計算上のものではなくて、実在することが証明された。この実験は、カシミール効果の実験である。
仮想粒子は(実在するのであるから)普通の量子とまったく同じであるかというと、実は明確な違いがある。仮想粒子は、存在していることはわかるのだが、個別に計測されていないのである。たとえば、カシミール効果では、「このくらいの量(たとえば全部で約百万個)の対生成が起こっている」ということはわかるが、一つ一つの粒子を確認しているわけではない。全体の総数がおおまかにわかっているだけだ。
ひるがえって、対生成して霧箱にとらえられた中間子を見ると、ここでは、対生成した中間子が一つ一つ確認されている。これは、仮想粒子ではなく、実在する粒子である。
結局、仮想粒子は、「存在していることはわかるが、個別に決定されてはいない」という形で示される量子である。その意味で、本質的に、確率的なものである。
仮想粒子の「仮想」という言葉は、もともとは「実在」に対比される概念であったが、今日では別の意味合いを帯びている。それは「確率」と結びついた意味であり、量子力学の根源(確率的なこと)と関連する意味である。
また、「仮想」に対比される概念は、「実在」ではなく、「観測(されること)」である。「実在」と「観測」とは、かつては同じことだと見なされてきた。だが、仮想粒子が実在するのに観測されない粒子であると判明したことによって、「実在」と「観測」との食い違いも問われるようになってきた。