ルガーP08
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ルガーP08(4インチモデル) |
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ルガーP08 | |
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種類 | 軍用自動拳銃 |
製造国 | ドイツ |
設計・製造 | モーゼル社、クリーグスホフ社ほか |
口径 | 9mm |
銃身長 | 102mm |
ライフリング | |
使用弾薬 | 9mmパラベラム弾 |
装弾数 | 8発、32発 |
作動方式 | シングルアクション ショートリコイル(トグルアクション) |
全長 | 220mm |
重量 | 870g |
発射速度 | |
銃口初速 | 320m/s |
有効射程 | 50m |
ルガーP08(Luger P08)は、ヒューゴ・ボーチャードが1902年に開発した自動拳銃のドイツ軍制式採用名である。初期の自動拳銃で、部品数が多く生産コストの高い銃であったが、1938年にワルサーP38が制式採用されるまでの約30年間、ドイツ軍の制式採用銃を務めた。また第2次世界大戦時、ワルサーP38の供給不足をまかなうため、引き続き生産・使用された。
自動拳銃黎明期のモデルであり、独特の機構を有する。またその動作の様子から、尺取虫というあだ名があった。
口径は9mm(9mm×19パラベラム弾)、7.65mm×22弾を使用。装弾数はシングル・カァラム・マガジンによる8+1発である。またスネイルマガジンと呼ばれる特殊な多弾装マガジンも存在し、装弾数は32発である。
目次 |
[編集] 歴史
ヒューゴ・ボーチャードが1880年代末期に設計したトグルアクション式大型自動拳銃「ボーチャードピストル」はドイツ武器弾薬製造社(DWM)が製造していたが、あまりに重く大きいため片手では撃てず、ストックを付けなければならなかった。そのためトグルアクション機構のみを用いて片手で撃てる銃に根本から改良する必要があった。
この銃を持って米海軍に売り込みに行ったDWM社のゲオルク・ルガーは帰国後、米海軍のトライアルに失敗した原因をボーチャード・ピストルの大きさ、バランスの悪さなどと考え、もっと実用的なものできないか改良・試作を行い、1900年に原型ができたのがモデル1900である。ボーチャードピストルとP08を比較すればその差は歴然で、P08の開発者はボーチャードという誤解が一部あるがトグル・アクションのアイデアを除けばP08の開発にボーチャードはほとんどタッチしていない。
ルガーP08の原型は1893年に完成し、1900年に7.65mmパラベラム弾を使用するパラベラムP1900が発表された。これは同年スイス軍に制式採用されたほか、民間用としてブルガリアでも発売された。1902年には9mmパラベラム弾を使用するモデルP1902が開発され、翌年アメリカ陸軍がトライアルを行ったが落選した。1906年には改良型がドイツ海軍に、そして1908年にはドイツ陸軍に制式採用され、第一次世界大戦から第二次世界大戦を通じて1943年まで生産され続けた。
ボーチャードはボーチャード・ピストルと同時に7.65mmリムレス・ボトルネックカートリッジを開発している。これは後に7.63mmモーゼル・カートリッジとなり、モーゼル、トカレフなどで採用され東側の主力軍用拳銃弾となる。 一方、ルガーの開発した9mmパラベラムはルガーP08、ワルサーP38で採用され、その後軍用拳銃の傑作銃ブローニングHPで50ヶ国以上の軍隊で採用され現在でも西側で最もポピュラーな軍用拳銃弾となっている。
- 1885年-マシンガンにマキシムがトグルロックを初めて採用。
- 1893年-ヒューゴ・ボーチャード、トグルアクションの自動拳銃の特許取得。
- 1896年-ボーチャードピストル販売開始。
- 1894年-ゲオルク・ルガー、米海軍にデモンストレーションを行う(不採用)
- 1900年-ゲオルク・ルガー、M1900を開発 口径7.65mm
- 1901年-スイス陸軍に正式採用。後にノルウェー、オランダ、ポルトガル、ルクセンブルク、ブラジル、チリで正式採用。オーストリー、カナダ、スウェーデン、ノルウェー、オランダ、ロシア、スペイン、ブルガリアでもトライアルが行われている。(不採用)
- 1901年-米軍でトライアル。1000丁購入されたが、リボルバー好きの米軍ではまったく不評で倉庫入り。
- 1902年-9mmパラベラム開発。9mmルガーの原型ができる。グリップセィフティを省略
- 1904年-ドイツ海軍で採用。
- 1906年-リコイルスプリングを板バネからコイルスプリングへ変更。これを境に以前をオールド・モデル、以降をニュー・モデルと分類されている。
- 1906年-45ACPにしたモデルを米陸軍のトライアルに提出(またも不採用)
- 1908年-ドイツ陸軍で正式採用。
- 1914年-第一次世界大戦勃発。ドイツ軍主力拳銃となる。ネイビー、カービン、アーティラリー、スネイルマガジンなどモデル派生。
- 1930年-DWM社がモーゼル傘下に。以降モーゼル社マーク入り。
- 1938年-ワルサーP38がドイツ軍に正式採用。
(ルガーのモデルは本ができるほど多種多様で複雑であるため、事実と異なっている可能性もあり得る)
[編集] 特徴
ルガーP08の作動方式は「トグルアクション」と呼ばれる特殊なショートリコイル機構であるが、コルト・ガバメントによってティルトバレル方式が確立された現在では、この機構を使用した拳銃は存在しない。
トリガーガードとトリガーの隙間は狭く、手袋をした手では扱いづらい。また部品数が多く、組み合わせに精度が必要なため、現在の判断基準では軍用には向かないと言える。細かい砂が機構に入り込むと動作不良を起こした。
撃発方式はストライカー式であり、当時としては珍しい方式であった。
米国ではルガーといわれるが、ヨーロッパ諸国ではパラベラムピストルとも呼ばれる。自動拳銃用の弾丸として現在最も広く使われている9ミリパラベラム弾は、この銃のために開発されたもので、9ミリルガーとも呼ばれる。「パラベラム」とは、ラテン語で「平和を欲するなら戦争に備えよ」という箴言から採られ、「戦争に備える」の意味(ラテン語ではパラ・ベルーム)。
アメリカの大手銃器メーカー、スターム・ルガー(Ruger)社とは銃もルガー技師も無関係であるが、日本語で書くとどちらもルガーなため混同されやすい。
また部品が多いため、整備を怠ると作動不良が発生した。ただこれは現在の銃でも同じことであり、きちんと整備がされている銃では問題は無かったと言われる。
後の時代の銃に比べ、職人の手作業による高い工作制度による削り出しで部品の多くが作られており、工芸品・アンティーク品としての価値もある。第二次大戦では、これを戦利品にすることがアメリカ兵たちの間で流行した。
[編集] バリエーション
- ルガーP08 ネイビー(ドイツ海軍モデル、銃身6インチ)
- ルガーP08 アーティラリー(陸軍の兵器で8インチモデル ストックとスネイルマガジンが装備されている “アーティラリー”は砲兵の意)
- マリーネP06/ルガーM1906(海軍採用モデル)
[編集] 逸話
ドイツ空軍総司令官であり国家元帥、かのアドルフ・ヒトラーの片腕とされたヘルマン・ゲーリング元帥(ヘルマン・ヴィルヘルム・ゲーリング)はこのルガーのモデルを好んでおり、その腰にはいつも、金色に輝く、文様入りの特注ルガーP08があった。後に「ゴールド・ルガー」「ゲーリング・ルガー」と呼ばれるモデルである。
アメリカ軍のパットン将軍がこれを真似、腰にアメリカンリボルバーである、「コルトSAA(シングル・アクション・アーミー)」の金色・象牙グリップ付き特注モデルを装備していたと言われる。
オリジナルのルガーはヨーロッパ製の軍用9mmパラベラムにあわせて製作されているため、アメリカ製のやや弱い9mmルガー弾を使用するとジャムすることがある。また、撃針の先が鋭いので、プライマーが薄いカートリッジを使用するとプライマーを突き抜けて爆風により破損することがあるので実射は注意。
[編集] 登場作品
- 荒鷲の要塞
- マーフィの戦い
- バンド・オブ・ブラザーズ
- 暁の七人
- パラサイト・イヴ2 アヤ・ブレア
- エロイカより愛をこめて エーベルバッハ少佐(初期作品のみ)
- クロス・オブ・アイアン=邦題『戦争のはらわた』 シュタイナー軍曹
- ルパン三世 多数のゲストキャラ
- 大激闘 マッドポリス'80 氷室健一
- バイオハザードコード・ベロニカ ゲーリング・ルガーが2丁登場。
- コヨーテラグタイムショー マルチアーノ12姉妹のエイプリルがゴールドルガーを使用。
- 太陽にほえろ! 藤堂俊介(昭和48-49年頃)