ヘンドリック・シェーン
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ヤン・ヘンドリック・シェーン(Jan Hendrik Schön 1970年-)はドイツ人の物理学者である。 のちに不正であると判明した見せかけの大発見によって有名になった。2001年にオットー・クルン・ウェーバーバンク賞、ブラウンシュヴァイク賞、2002年に傑出した若手研究者のための材料科学技術学会賞を受賞している。
シェーンのスキャンダルは科学者のコミュニティにおいて共著者・共同研究者と論文誌査読者の責任の度合いについて議論を引き起こした。査読は論文の不正を検知することよりも、論文のオリジナリティと妥当性を判断すること、誤りを見つけることに重点が置かれている。そのことが幾分か妨げとなって誰も査読のプロセスにおいてシェーンの論文が偽りであることを判定できなかった。
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[編集] 有名人になる
シェーンの研究領域は物性物理学とナノテクノロジーである。彼は1997年にコンスタンツ大学から博士号を授与され、1997年後半にベル研究所に雇用された。
2001年には、シェーンが著者に名を連ねる論文が平均して8日に1本のペースで量産された。 2001年、ネイチャーで分子程度の大きさのトランジスタを作成したと発表した。シェーンは電気回路を組み立てるために薄い層の有機色素の分子を使ったところ、電流が流れているときにトランジスタとして動作したと主張した。彼の業績はシリコンベースのエレクトロニクスから離脱して有機エレクトロニクスに向かう出発点となりえるものとして重要であった。シリコンが壊れる限界点を超えてチップの小型化を継続させ、それゆえ現在の予測よりもより長期間にムーアの法則が続くことを確約してくれることであっただろう。その発明によってエレクトロニクスのコストを劇的に下げていくことであろうとの予想もなされた。
[編集] 大発見の疑惑と調査
まもなく彼は研究成果を出版したが、他の物理コミュニティからシェーンのデータがおかしいと申し立てられた。申し立てによれば、とりわけデータが異常に正確で、いくつかのデータは一般的な物理学上の常識から導きだせない。カリフォルニア大学バークレー校のリディア・ソーン教授は二つの実験の温度がまったく違うのにノイズが同じであることに気づいた。ネイチャーの編集者達がそのことをシェーンに指摘したとき、彼は誤って同一の実験のグラフを提出してしまったと主張した。コーネル大学のポール・マッキューン教授はシェーンの論文において第3の温度においてまたしても同じノイズがあることを発見した。マッキューン教授とソーン教授および他の物理学者の追跡調査によってシェーンの論文のデータの多くが重複していることを明らかにした。全部で、25のシェーンの論文と20人の共同執筆者に嫌疑がかけられた。
2002年5月、ベル研究所はスタンフォード大学のマルコム・ビーズリー教授を不正調査委員会の議長として任命した。委員会はシェーンの共同研究者全員に質問書を送り、主要な共著者3人である鮑哲南、バートラム・バトログ、クリスティアン・クロックに聞き取り調査を行った。また、加工された数値データを含む論文の原稿を調査した。生データの記録をシェーンに要求したが、研究所のノートには記載されていなかった。彼の生データが記録されたファイルは彼のコンピュータから消去されていた。シェーンによれば、ハードディスクの容量が限界にきていたので削除したとのこと。さらに、実験サンプルはすべて捨てたか、修復不可能までに破損してしまったとのこと。
2002年9月25日、調査委員会は調査報告書を公にした。調査報告書には24の不正行為に関する詳細な申し立てが掲載されていた。このうち少なくとも16件についてはシェーンによる科学的な不正の証拠が発見された。すべての実験データの組み合わせはたくさんの異なる実験において再利用されていたことが分かった。実験データからプロットされたとしていたいくつかのグラフが実は数学曲線によって作り出されていたことも発見された。
不正行為はすべてシェーン一人で行ったことがわかり、他の共同研究者全員は不正行為に関わっておらず、不正をした容疑から解放された。しかしながら、彼ら全員がシェーンのデータが正しいと信じたことに対してプロとしての責任を果たしたのかどうかははっきりしなかった。関わりの薄かった共著者たちは各々の責任を果たしたことが判明したものの、2000年の中頃までシェーンの所属する研究グループのリーダを勤めていたバートラム・バトログの責任に関しては、「それほど問題があったとは言えない」との結論に疑問の声が上がった。2000年9月からスイス連邦工科大学チューリッヒ校の教授となったバトログは自身に対して明らかな疑いの目がむけられてからは適切な行動をとったものの、シェーンの異常な実験結果を考えると、できることならもう少し早い段階にきっちりと吟味すべきであった。論文に対する共著者たちの責任に対する一般的なコンセンサスが無かったので、この問題を解決するために調査委員会は論文自体は無効であると宣言した。バトログは形式上は処分されなかった。
ベル研究所は報告書を受け取った日にシェーンを解雇した。ベル研究所の歴史において初めて不正が発見された事件であった。
[編集] 調査結果と制裁
シェーンは多くの論文でデータは正しくないことを認めた。彼は本当に偶然から代替物が生成したのだと主張した。彼はいくつかのデータは偽ったものの、彼が観察した動作に関して納得のいく証拠を見せることができると述べた。実験はうまくいき、分子サイズのトランジスタは彼が示したテクニックを使うことによって可能であるという主張を続けた。しかし、デルフト工科大学とトーマス・ワトソン研究センターの実験者達がシェーンと同じような実験を続けていたが、同じような結果は得られなかった。疑惑が公になるまえにいくつかの研究グループが試したものの有機分子材料の物理学分野における画期的な結果を再現することはできなかった。
2004年6月、学生時代の研究がその後のベル研究所でのスキャンダルにつながったという証拠がなかったにも関わらず、シェーンはコンスタンツ大学の博士号を剥奪された[1]。
2004年10月、ドイツ研究財団合同委員会(DFG)は彼に対する制裁を発表した。件のポストドクターの研究者は8年間、DFGの選挙の投票権およびDFG委員になる権利を剥奪されることとなった。この期間、シェーンは査読者になること、またはドイツ研究財団資金に申し込みができないこととなったpdf press release)。
[編集] 取り下げられた論文
2002年10月31日付けでサイエンス誌はシェーンによる8論文を取り下げると発表した[2]:
- J. H. Schön, S. Berg, Ch. Kloc, B. Batlogg, Ambipolar pentacene field-effect transistors and inverters, Science 287, 1022 (2000)
- J. H. Schön, Ch. Kloc, R. C. Haddon, B. Batlogg, A superconducting field-effect switch, Science 288, 656 (2000)
- J. H. Schön, Ch. Kloc, B. Batlogg, Fractional quantum Hall effect in organic molecular semiconductors, Science 288, 2338 (2000)
- J. H. Schön, Ch. Kloc, A. Dodabala-pur, B. Batlogg, An organic solid state injection laser, Science 289, 599 (2000)
- J. H. Schön, A. Dodabalapur, Ch. Kloc, B. Batlogg, A light-emitting field-effect transistor, Science 290, 963 (2000)
- J. H. Schön, Ch. Kloc, H. Y. Hwang, B. Batlogg, Josephson junctions with tunable weak links, Science 292, 252 (2001)
- J. H. Schön, Ch. Kloc, B. Batlogg, High-temperature superconductivity in lattice-expanded C60, Science 293, 2432 (2001)
- J. H. Schön, H. Meng, Z. Bao, Field-effect modulation of the conductance of single molecules, Science 294, 2138 (2001)
2002年12月20日には、Physical Review誌がシェーンによる6論文の取り下げを発表した[3]:
- J. H. Schön, Ch. Kloc, R. A. Laudise, and B. Batlogg, Electrical properties of single crystals of rigid rodlike conjugated molecules, Phys. Rev. B 58, 12952-12957 (1998)
- J. H. Schön, Ch. Kloc, and B. Batlogg, Hole transport in pentacene single crystals, Phys. Rev. B 63, 245201 (2001)
- J. H. Schön, Ch. Kloc, D. Fichou, and B. Batlogg, Conjugation length dependence of the charge transport in oligothiophene single crystals, Phys. Rev. B 64, 035209 (2001)
- J. H. Schön, Ch. Kloc, and B. Batlogg, Mobile iodine dopants in organic semiconductors, Phys. Rev. B 61, 10803-10806
- J. H. Schön, Ch. Kloc, and B. Batlogg, Low-temperature transport in high-mobility polycrystalline pentacene field-effect transistors, Phys. Rev. B 63, 125304 (2001)
- J. H. Schön, Ch. Kloc, and B. Batlogg, Universal Crossover from Band to Hopping Conduction in Molecular Organic, Phys. Rev. Lett. 86, 3843-3846 (2001)
2003年3月5日には、ネイチャー誌がシェーンによる7論文の取り下げを発表した[4]:
- Schön, J. H., Kloc, Ch. & Batlogg, B. Superconductivity at 52K in hole-doped C60. Nature 408, 549-552 (2000).
- Schön, J. H. et al. Gate-induced superconductivity in a solution-processed organic polymer film. Nature 410, 189- 192 (2001).
- Schön, J. H., Meng, H. & Bao, Z. Self-assembled monolayer organic field-effect transistors. Nature 413, 713-716 (2001).
- Schön, J. H. et al. Superconductivity in single crystals of the fullerene C70. Nature 413, 831-833 (2001).
- Schön, J. H. et al. Superconductivity in CaCuO2 as a result of field-effect doping. Nature 414, 434-436 (2001).