ヒヤル
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ヒヤル(حيل ḥiyal)とは、アラビア語で奸計、潜脱を意味する言葉で、シャリーア(イスラム法)に照らして合法(適法)的な行為を複数組み合わせて、本来はシャリーアにおいては非合法(非適法)な結果を達成する行為のことである。
法学派によってヒヤルの取り扱いには様々な議論が行われるが、トルコや中央アジアなど非アラブ圏に多いハナフィー派では、ムフティーのファトワーがヒヤルを合法と認め、むしろ積極的に薦める場合すら多いのに対して、マグリブ(北アフリカ)に多いマーリク派では厳格にヒヤルを否定する傾向がある。
[編集] 金融におけるヒヤル
金融におけるヒヤルは、シャリーアによって利子を取ることを禁じられたイスラーム圏において、シャリーアを回避しつつ実質的に利子を取ることを目的とした金融技術の一種ということができる。
ヨーロッパにおいては、いわば商業の発達に押し切られる形で、利子つき(=有利子)金融が教会からも公認された。だがそれ以前から、非公認ながらも有利子金融は脈々と息づいて来ていた。一方、現代イスラーム圏ではイスラム銀行に代表される、「無利子金融」というシステムが確立している。が、しかし近現代に入るまでは、他地域と同様に、さまざまな方策を用いて利子禁止規定を実質的には骨抜きにしていた。これをヒヤル(奸計)と言い、商業において重要な役割を占めており、ヒヤルの方法を専門に解説した書物も、複数あった。
ヒヤルの例(「モハトラ契約」):任意の品(何でも構わない。例えば、本一冊)を、A・Bの両者間で売買する契約を結ぶことによって、利子つき金融と同等の効果を持つ。(この例は最も有名なもののひとつ)
- ◇〈契約1〉AがBに本を120万円で売る。(支払いは1年後)
- ☆〈契約2〉BがAに本を100万円で売る。(支払いは即時)
- ☆〈契約2〉AがBに100万円支払う。
- ◇〈契約1〉BがAに120万円支払う
……つまり、BがAから100万円借りて120万円にして返す、という契約を結ぶことはシャリーアによって禁じられているため不可能だが、このように、本(繰り返すがこれはダミー商品なので、何でも構わない)を売買する契約を二つ組み合わせることで、それと同様の結果が得られる。この任意の商品は両者の間を往復するだけで、実質的には移動しない。
なお、利子そのものを禁じていない文化でも、高利に対する規制は厳しいことが多かったが、それに対して金融業者(高利貸)もまたヒヤルに似た対応をおこなっていた。(利子記事参照)