パーソナル無線
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パーソナル無線(パーソナルむせん)は、900MHz付近の周波数を利用する、無資格で使用可能な無線局。大型トラックの不法市民ラジオ(CB無線)が大きな問題となった1982年に登場した。
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[編集] 概説
パーソナル無線は、マルチチャネルアクセス無線(MCA無線)技術を使用した簡易無線の一つである。チャンネル数は80(後に158)、空中線電力は5Wと無資格で使えるものでは最も大きく、第4級アマチュア無線の10W(当時の制限。現在はV/UHF帯に限り20W)と比べても遜色のないレベルであり、変調方式もFM(周波数変調)を用いて、雑音の少ない明瞭な交信ができるのも魅力のひとつである。ちなみにCB無線は、27MHz帯、空中線電力500mW(0.5ワット)、AMである。
パーソナル無線局を運用するには、無線局の開局申請を行い、無線局免許状の交付を受ける必要がある。無線従事者免許(従免)は必要ない。手続きは、申請書類と共に無線機に同梱されている情報の書き込まれていないROMカートリッジを総合通信局(旧電波監理局)に提出して、ROMカートリッジに必要な諸情報の書き込みを受ける必要がある。このROMを無線機に装着しなければ電波を送信することはできない。また、一度無線機に装着すると取り外すことができない構造になっており、情報の不正な改竄を防いでいる。つまり、それぞれの無線機には初めて登録された際の識別番号が固定され、所有者(免許人)が変わっても識別番号は変わらない。譲り受けた無線機を利用して開局申請する場合は、必要な情報を申請書類に記載する。
免許の有効期間は10年間で、その後も継続して利用するには再免許申請が必要である。
開局および再免許の申請は財団法人電気通信振興会が代行業務を行っており、これを利用すると手続きの一部が簡略になる。なお、免許を受けると電波利用料(1年ごとに600円)の納付義務が発生する。
実際の通信は、「群番号」と呼ばれる5桁の数字番号を無線機に設定して行い、同じ群番号の局の間でのみ通信が設定される。アマチュア無線における不特定の相手局に対する呼び出しCQに相当する操作は、群番号を00000として行う。
無資格で利用できるために数々の制限がある。例えば、
- アンテナは定められた利得以下のものでなければならない(絶対利得7.14dBまで)
- アンテナは無指向性のものに限る
- 1回の送信時間が最大3分に制限される
- MCA無線であるため実際に使用するチャンネル(周波数)はユーザーにはわからない
- メーカーが純正品として届け出た周辺部品以外の接続や利用は許されない
などである。
なお、不法CBが流行した時代に山梨県の業者が「NASAパーソナル無線」を名乗る37MHz帯のAM無線機を製造販売していたが、これは本稿のパーソナル無線とは一切関係ない。NASAパーソナル無線の運用は不法であり、無線機を送信できる状態で所持しているだけでも電波法違反に問われる。
[編集] 無線機
初期には、アマチュア無線機メーカーのほかにも、大手家電メーカーや音響メーカーが参入し、多くの機種が発売され、トラックなどに取り付けられることが多かった。しかし、使用する上で制限が厳しいためか利用者が減少し、無線機の売れ行きは減り、1990年代に入るとほとんどのメーカーは市場から撤退した。2005年現在、パーソナル無線機を製造しているメーカーはない。
大手家電メーカーの場合、設計製造は傘下の業務無線機メーカーまたは業務無線機担当部署があたった。そのため、民生品にもかかわらず、内部構成は、アマチュア無線機ではなく業務無線機の流れをくむ、受信感度よりも信頼性を重視した堅実なものであった。
[編集] 無線機メーカー
- 松下通信工業(現パナソニック モバイルコミュニケーションズ)
- 三菱電機:ウィスパーノットと言うハンディ機を作っていた。
- 日本電気
- 信和通信機
- 八重洲無線
- アイコム
- 山水電気(信和通信機が製造・供給)
- 日本電装(現デンソー)
- ケンウッド
- パイオニア
- 富士通テン
[編集] アンテナメーカー
- 日本アンテナ
- アンテン
- 電気興業
- マスプロ電工
- 第一電波工業
- コメット
[編集] 違法運用の問題
市場に流れた無線機の一部は、パーソナル無線の周波数帯を逸脱する送受信周波数範囲の拡大などの俗に「スペシャル」などと呼ばれる違法改造(パーソナル無線機の改造は電波法違反)や、送信出力信号を増幅して空中線電力を増大する装置(パワーアンプ、増幅装置)の接続が行われている。トラックに搭載された不法CB無線同様に、幹線道路沿線のテレビやラジオ、またパーソナル無線周波数帯の上下で運用する各種の業務無線に妨害を与える違法無線局が問題となっている。
パーソナル無線機の改造には、ソフトウエアのソースコード、メモリマップ、コントロール仕様などの情報やICEなどの開発システムが必須である。初期の機種は一般的なROMが使われていた為、改変したデータをROMに書き込んで挿し換えるだけで改造が出来た。その後、改造対策として使われるようになった、一般には手に入りにくい面実装ROM内蔵CPUも、不法ソフトが書き込まれたCPUと交換する事により改造されていた。
出力を増大するパワーアンプはUHF帯ゆえに比較的高い技術が必要であった。当時のトランジスタでは単品では50W程度が限度であったため、これを超える出力の物は、複数のアンプの出力を合成して100–200Wの出力を得ており、200W以上の物はほとんどなかったようである。
パーソナル無線の周波数帯を逸脱して運用する不法局に対して警告するため、規正局がある。特別業務の局で、免許人は総務省。通信の相手方は「本無線局の発射する周波数の電波が受信可能な受信設備」となっている。出力は25–100W。無線機に繋いだボイスレコーダーで、録音された内容をボタン操作によって一方的に流す単向通信である。運用には第2級陸上特殊無線技士以上の免許が必要。
[編集] 廃止の検討
総務省が平成17年10月31日に発表した報道資料『「周波数再編アクションプラン(改定版)」の公表』によると、パーソナル無線の廃止が検討されているようである。
東北総合通信局のパーソナル無線の免許制度が変わりますによると、旧設備規則により技術基準適合証明を受けたパーソナル無線機の新設手続きは2007年11月30日で終了となり、既設局も2022年11月30日で終了となる(設備を変更せず、再免許申請手続きを行った場合)。これは技術基準が改定された為の処置で、パーソナル無線の廃止とは関係なく、新しい技術基準適合証明を受けたパーソナル無線機であればこの期限を越えてパーソナル無線を運用できるが、現在パーソナル無線機を製造しているメーカーは無く、今後新しい技術基準適合証明を受けたパーソナル無線機が発売される見込みが無いことから、このままでは、2022年11月30日でパーソナル無線は事実上消滅する事になる。