ディープフォーカス
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ディープフォーカス(Deep focus)とは1つのショットのアクションの多岐にわたって焦点を合わせる撮影技法。ディープ・フォーカスとも、日本ではパン・フォーカスとも言われる。
多くの重要なアクションが奥行きの異なった焦点で同時に起こることを可能にし、シャロウフォーカスとは正反対である。シャロウフォーカスでは、カメラに最も近いただ一つのアクションのみに焦点が合っている(もっとも、その他のアクションもぼやけてはいるが見ることができる)。
ディープフォーカスでは、観客が数多くの可能性と選択肢を手にすることができるため、映画におけるリアリズム技法の一つとみなされてきた。とりわけ、ロングテイクと共に使われる場合はそうであった。
その反面、ディープフォーカスは観客がそのショットあるいはミゼンセヌ(画面上の構成)の数多くの異なった地点にまなざしを向けることを可能にする。
ディープフォーカスは初期のサイレント映画で用いられていたが、フィルム・ストックの質が変化したため、この技法を利用するのが困難になっていた。
しかし、1930年代になってはじめて撮影監督のグレッグ・トーランドが、演劇的なルックを求めたウィリアム・ワイラー監督の要望によってディープフォーカスの先駆的な仕事を成し遂げた。
そもそも、絞りをしぼって撮影すれば、明瞭に焦点が長くなるのは分かっていたが、そのためには、特に屋内の撮影ではより明るいレンズと感度の高いフィルム、十分な照明が必要であったが、彼は『嵐が丘』(1939)で初めてミッチェルBNCカメラを用い始める等、この技法の開発を始めていた。特に『市民ケーン』(1941)でのディープフォーカスの教科書的な使用例は、今日でも引き合いに出される。