スーツアクター
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スーツアクターとは、着ぐるみを着用し、演技をこなす俳優のこと。
ファンからはスーアクと略して、または中の人、着ぐるみ俳優、内臓と呼ばれることもある。ヒーローや怪獣・怪人、マスコット、イメージキャラクターのように、人間とは外見の異なるものを着ぐるみを用いて表現する。
特撮映画・テレビ番組の撮影においては、下に述べるような専門の技術を有するスタントマンやスタントウーマンの役割である。狭義にはスーツアクターとは彼らのことのみを指す。またマスコットやイメージキャラクターの場合には、アルバイトのように専門職でない者が演じることが多い。
スーツアクターという言葉は(特撮映画・テレビ番組によってこの役割が日本で発展した事による)和製英語であり、ハリウッドでは単に"Stunt man"(スタントマン)の役割の一部とされる。
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[編集] スーツアクターに求められる技術
スーツアクターは通気性の良くない着ぐるみで全身を覆われるため、内部に熱がこもりやすく体力的にタフでなければならない。さらに作品や着ぐるみによっては、視界を大きくあるいはほとんど遮られた状況で殺陣やアクション、さらにはスタントを行わなければならない場合があることから、生身のスタントマンよりも高度な技術が必要とされる。
また、通常は表情や声(台詞)を用いた演技ができないため、全身を使った高い演技力、パントマイムの技量が求められるとされる。かつては、特に子供向け特撮作品においては大げさなぐらいのパフォーマンスによって表現されることが多かったが、作品全体にリアリティが求められるようになった1990年代後半からの特撮作品では、より自然に見える動きで表現することが求められている。
特に「変身」という過程を伴う作品においては変身後のキャラクターのみを演じる場合が大半であるが、これはあくまでも「変身」という過程によってキャラクターの外見だけが変わった状態であり、「変身」という過程の前後でそのキャラクターの性格や体の構造に著しい変化がない限り、変身の前後に関係なく同一のキャラクターであることに変わりはない。つまり、全く同一のキャラクターを「変身」という過程の前後で別々の者が演じるということであり、俳優としての技量もより一層問われるとされる。更に怪獣など「人ではないもの」を演じるにあたっては、ヒーローとも異なる技量が要求される。「昭和シリーズ」のゴジラを一貫して演じた中島春雄が、動物の動きを研究するために足しげく動物園に通っていたという話は有名である。
その一方で後述のように素顔を見せることが殆どないため、その演技が年齢や外見に左右されないメリットもあり、一つの作品において複数の人物を演じることが可能である。またスーツアクターの体力と技量次第では、新堀和男のように20年近くわたってヒーローの中身を演じ続けられるだけでなく、蜂須賀祐一・蜂須賀昭二らのように小柄な男性スーツアクターが女性キャラクターの中身を演じたりすることも可能である。「動き」と「声」の違いこそあれど、素顔を見せない事によるメリットは声優のそれと共通すると言えるのかもしれない。
[編集] スーツアクターの属するプロダクション
スーツアクターは同時にスタントマン/スタントウーマンでもあることから、多くの場合これらやアクション俳優を専門とする芸能事務所に属している。
- 大野剣友会
- ジャパンアクションエンタープライズ(JAE:旧名ジャパンアクションクラブ(JAC))
- レッドアクションクラブ
など。
特撮関連人名一覧も参照のこと。
[編集] スーツアクターとクレジットタイトル
スーツアクターは「裏方」でこそないが、かといって映像作品で表に現れるような役割でもない。例えば東映の特撮テレビ番組におけるキャストクレジットでは、彼らは役名無しで名前をひとまとめに表示されて、その下に「(ジャパンアクションエンタープライズ)」(JAEへの改称前は「(ジャパンアクションクラブ)」)と付されるのが通例である。ただしJAE以外に属する者もひとまとめにされる。これはスーツアクターの存在を小さな子供達に認識させないことで、彼らの夢を壊さないための配慮とされている。スーツアクターの名前が演じたヒーローの名前を冠してクレジットに表記されるのは、映画版などに限られる。 超星神シリーズではOPで「変身後の役名:スーツアクター」と紹介される。ウルトラシリーズでもかつては「ヒーロー名:スーツアクター」「怪獣:スーツアクター」と記載されていたが、ウルトラマンティガの途中から「特技アクション:スーツアクター」という風に役名が外された。ただ、ゴジラシリーズでは一貫して「怪獣:スーツアクター」の表記が続いている。これは、他作品と比べてスーツアクターがクローズアップされているから、だと思われる。
ただしスーツアクターも、例えば怪人に襲われる脇役のようにやられる側にもスタントの技量が必要な役を演じるときには素顔で姿を現す。
また変身前の人物を演じる俳優も、マスクを取った表現や壊れた表現を行う場合には着ぐるみの中に入って演技を行う必要がある。このシチュエーションは過去の作品では「快傑ズバット」や「鳥人戦隊ジェットマン」、近年の作品では「忍風戦隊ハリケンジャー」や「仮面ライダー響鬼」において頻繁に用いられている。また東映のスーパー戦隊シリーズにおいては、『科学戦隊ダイナマン』以降、最終回やそれ付近では変身前の俳優自らがスーツアクターとしてアクションを行い、普段のスーツアクターは素顔でゲスト出演するのが恒例になっている。