スクリーントーン
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スクリーントーンは、イラスト、漫画などの作成に用いる、さまざまなパターンが印刷されている特殊なシール状の画材。切り抜いて台紙からはがし、絵に張る事で原稿を作成する。トーンと略すことが多い。もともとは新聞や建築図に使われたものである。また、「スクリーントーン」とは英エセルテ社の商標であるが、一般的な名称として広く使われている。
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[編集] 概要
基本的にはモノクロ印刷の中間色や、背景、洋服の柄、本、新聞、その他様々なものの柄を表現するのに使われる。発行されているモノクロ印刷の漫画などをよく見ると、水玉のような規則的な模様で中間の灰色が表現され、服地の柄などにも規則的な繰り返しパターンが見られる。スクリーントーンが登場する以前は、この種の表現は画家が直接原稿に書き込んだ指定により印刷所が行っていた。そこにスクリーントーンが取り入れられたことによって表現の幅は広がったが、一方でイラストレーター、漫画家の仕事も増えた、という面もある。また、あまり使い過ぎると絵柄が無機質に、また画面が見づらくなる。ちなみに漫画で最初にトーンを使用したのは、新漫画党のメンバーであった永田竹丸である(ただし、本人談)。近年では、漫画家の技術向上により、複雑な階調を持つ絵画的な描写や、スピード感・閉塞感・時間経過・感情表現などの多様な演出を行うためにも用いられる、日本の漫画制作に欠かせない物である。 2006年現在では、価格はB4サイズのもので大体250~500円位だが、メーカーによって異なる。
[編集] 種類
多種多様のスクリーントーンが存在し、模様によって便宜的に数種類に分類・呼称されている。各トーンについている連番については各メーカーが独自に決めており、法則もまちまちであるため、番号を見ただけではどういったトーンなのかわからないし、同種のトーンでも番号が全く異なったりする。初心者が混乱に陥る一因でもある。
[編集] アミトーン
細かな水玉模様のトーンを一般にアミトーンという。最も基本的なスクリーントーンと言っていい。模様の種類を表すために、点の密度を表す線数(ライン(L)数)と濃度を示すパーセント(%)数が書き込まれており、例えば、60L10%や40L40%などと書かれる。線数とは、1インチあたりの線や点の列数を表す単位で、「ライン/インチ」(line per inch、lpi)を使って表記することもある。濃度とは1インチ四方の黒い印刷部分と余白の面積の比率を言う。60L30%という表記の場合、1インチの幅の中に60個の点があり、1インチ四方中の黒い部分の濃度が30%になるということを表している。 しかし、同じ線数・濃度のトーンでも、メーカーが違うとわずかな印刷の差異があるために、重ねた際に模様に乱れの生じるモアレを起こすことがある。 また、水玉ではなく正方形のドットで構成されている物もある。
[編集] グラデトーン
正確には「グラデーショントーン」であるが、冗長であるためそう呼ばれることは少ない。広義のアミトーンの一種であるが、全面均一な濃度で印刷されているアミトーンとは異なり、濃度が階調的に印刷されている。普通濃度は1つの点の大きさを変えることで変化させており、線数は一定のままである。これは重ね貼りの際、モアレを起こさないためである。様々な濃度や階調の度合い、幅を持つ多種多様のものが存在する。細い幅のものは「帯グラ」「こまグラ」「ちまグラ」などと呼ばれたりもする。
主に金属表現などに用いるが、画面にメリハリを与え、立体感を出す、現実感が出るなど多彩な効果を生むため、作家によって使い方は多岐にわたる。
[編集] 多線トーン
ライントーンとも呼ぶ。ドットではなく、櫛の歯のように線を規則的に連続して並べて濃淡を表現している物。またライントーンでかつグラデトーンなものもある。
[編集] 砂トーン
皮の表現などによく使われる砂トーンは不規則な形の小さなドットがランダムに配置されることで構成される。濃度パーセントのみが記述されており、アミトーンと違い、モアレを起こさない。砂トーンでかつグラデトーンなものもある。
[編集] 柄トーン
なんらかの小さなカット・イラスト・模様などが連続して印刷されている物を指す。花柄、キラキラした光を表したものなど非常に多くの種類があり、また日々新しい柄トーンが各社から開発されている。と同時に、人気が無いため廃盤になり消えていく柄トーンも多く存在し、描き手の悩みの種の一つにもなっている。
[編集] CGトーン
イラストや写真などをコンピュータで網点加工するなどして、印刷した物。技術がないと描画するのが難しい、水・雲・夕日などなどを手軽に原稿上に表現できるが、うまく用いないと違和感を生じる原因にもなる。近年では3DCGによって生成した立体物や街並みなどを印刷した物もある。
[編集] 背景トーン
複雑な建物や造形物などが印刷されているトーン。技術が無い者にとって、また作画時間を節約したい時には便利な物だが、作画技術を鍛える機会を自ら捨てているという意味で、諸刃の剣とも言える。また、構図やモチーフのバリエーションに乏しく、画面に違和感を生じることが多い。少し漫画の描き方を知っている者には、容易にこの種のトーンを使っていることを看破される。
[編集] 効果トーン
本来作家が自ら描画する、集中線・カケアミ・流線など、漫画表現に用いる効果線を印刷してあるトーン全般を指す。主に人の手によって描かれた物だが、なかにはCGによって描かれた物もあり、これらとCGトーンを明確に区別するのは難しい。つけペンに習熟する機会を捨てているという点で、背景トーンと同じく諸刃の剣。
[編集] ホワイトトーン
通常のスクリーントーンは透明なフィルムに黒インクで印刷されているが、これは白インクで印刷された物。既に黒インクで描画された絵の上や、比較的濃い通常のトーンの上に貼って用いる。通常のトーンよりも種類は少ない。
[編集] カラートーン
カラーイラストなどに用いる、有色印刷のスクリーントーン。アミトーンなどは存在せず、均一に様々な色が印刷されているのみである。繊細で扱いが難しく、時間経過や光に晒されることでの退色にも弱く、通常トーンで用いられる削りなどの手法も使いづらい。最近ではパソコンによる着彩及びデータ入稿が浸透してきたため、使用している作家は少なくなり、製品自体も市場から姿を消しつつある。漫画業界では伝統的にカラートーンと呼ばれてはいるが、流通市場ではオーバーレイと呼ぶのが普通である。
[編集] コピートーン
製品自体の見た目は、厚めで何も印刷されていない透明のスクリーントーンである。コピー機によって印刷可能なフィルムから出来ており、好みの絵や柄などを印刷して、トーンを自作するためのもの。現在のコピー機の印刷品質を考慮して使用する必要がある。
[編集] ブランド(製造各社)
[編集] レトラセット(英エセルテ)
主なラインナップは「スクリーントーン」「コミック・スクリーントーン」シリーズ。1990年代初頭頃までは国内のトーン市場を独占しており、商標である「スクリーントーン」は一般的な名称として扱われるほどになった。しかしMAXONやDELETERを初めとする新規参入企業との品質・価格競争に敗れ、国内販売会社の倒産・撤退劇を繰り返し、かつての勢力を失った。「スクリーントーン」の印刷品質は高いが、廉価版・入門者用の「コミック・スクリーントーン」はそれほど品質は良くない。価格も他社より高めで、特に独占市場を形成していた当時はB4サイズのもので1枚800円にも達することもあった。他社が様々な新柄・CGトーンを投入する中、ラインナップの拡充をあまり行わず、印刷業界の進歩に伴うタチキリの拡張などへの対応も遅れ、ユーザー離れを引き起こした。
[編集] DELETER(エスイー株式会社)
主なラインアップは「デリータスクリーン」「デリータスクリーンジュニア」「テクノスクリーン」。昭和62年(1987年)に「デリータスクリーン」の製造を開始した。現存するメーカーでは最もパターンの種類が豊富で、特に柄トーン・CGトーンの拡充に力を注いでいる。価格と品質のバランスが良く、アマチュアからプロまで幅広く使われている。「テクノスクリーン」は「デリータスクリーン」の廉価版だが、価格差はさほどではない。「ジュニア」は半分のB5サイズ。
[編集] MAXON(ホルベイン画材株式会社)
主なラインナップは「コミックパターン」シリーズ。MAXONは(株)ホルベイン画材のブランドで、レトラセットのトーンが独占市場を築いている中に、インクや原稿用紙、そしてトーンなどを含めた総合漫画用品ブランドとして投入されたもの。「コミックパターン」は「スクリーントーン」に比べてはるかに安価で、購入費の捻出に苦しむ作家達にとって救いの手となった。発売初期はフィルムの粘着力が強力で扱いづらく、描画したインクを紙ごとはがしたという事故も聞かれたが、近年では改善された。しかしそれでも、他社より粘着力が強めである。
[編集] IC(アイシー株式会社)
主なラインアップは「ICスクリーン」「ICスクリーンユース」。印刷技術の向上がめざましく、丁寧な作りが高い評価を得ている。華やかな柄物が充実しており、少女漫画系作家からの評価が高い。「ユース」は廉価版。
[編集] SAMデザイントーン(サム・トレーディング株式会社)
ラインナップは単に「デザイントーン」と呼ばれることが多い。1994年創業の比較的新しい会社ながら、リーズナブルな価格のトーンを販売しており、認知度が上がってきている。CGを駆使した独特のパターンの制作が目立つ。
[編集] Jトーン(有限会社ジェイ)
[編集] オリジナルトーン(赤ブーブー通信社)
同人誌即売会を主催する業務を行っている会社だが、独自にトーンも製造販売している。
[編集] ラジカルスクリーン(ラジカルアート)
[編集] TRIART(サンスター文具株式会社)
[編集] 使用法
使用する場合は、原稿の上にトーンフィルムをかぶせ、模様が欲しい部分の形に合わせてカッターナイフで切り取り、台紙からはがし、トーンフィルムの上からトーンヘラやバーニシャーと呼ばれる器具でこする事で定着させる。メーカーや製品によっては、フィルムの粘着力が強く、原稿に軽くかぶせただけで定着してしまうものもあるため、注意が必要である。印刷が痛むため、トーンフィルムを直接こすることはせず、当て紙(通常はトーンフィルムについている台紙)を用いる。また、模様はフィルム表面に印刷されている為、表面のインクのみをカッターの先で削り取る「削り」という手法により、描画したり、グラデーションをかけたりすることも可能。時には砂消しゴムを使って削ることもある。他にもトーンを複数貼りつけることで更に濃くしたり、階調を表現する「重ね貼り」・「パイル」などと呼ばれる手法もある。このとき、並んでいるドットをずらすことでモアレが起きる。モアレは本来歓迎すべきものではないが、逆に効果として利用することもあり、集中線トーンなどではごく一般的な技法である。一度定着したトーンは、ドライヤーなどで熱を加えることにより、糊が軟化し、容易にはがすことが出来る。ただし、原稿用紙に糊が残り、その上にはインクが乗りづらく、ホコリなどが付着する原因になるため、再度トーンを貼らない場合は消しゴムや練り消しゴムなどで糊をこすって除去する必要がある。
[編集] ソフトウェア
近年はパソコンの普及によりデジタルによる漫画製作が増えており、デジタル原稿においてスクリーントーン同様のアミ効果や文様パターン、集中線などの表現を行うソフトウェアが発売されている。
- ComicStudio(CELSYS)
- COMICWORKS(DELETER)
- Photoshop(adobe)など漫画制作専門ではない画像処理用ソフトウェアの中にも、ある程度のスクリーントーン的な作業が行えるものがあり、PowerTone(CELSYS)などのプラグインにより更に高度なトーン処理を実現する物もある。
- これらのソフトウェアで利用するためのトーンの画像データのみを収録した素材集も発売されている。
[編集] その他
- ほとんどのスクリーントーンがアセテートフィルムで作られている。生分解性は高いが、難燃性のため、廃棄時は燃えないゴミとして区分するべきである。
- 透明なフィルムに裏面から模様が印刷されており、上からこすった部分のみが原稿に転写されるタイプのものもあり、「イラストテックス」などという名称で複数の会社から販売されている。かつてのレトラセットからは「インスタンテックス」という名前で同様の物が出ていたため、こちらの名称がおなじみの作家も多い。
[編集] 外部リンク
- 英レトラセット(2006年現在のレトラセット・ブランドのスクリーントーンの製造会社。輸入取り扱いはオリエント・エンタプライズ)
- DELETER
- MAXON
- IC INC.
- サム・トレーディング
- 赤ブーブー通信社
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