サイクリックボルタンメトリー
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サイクリックボルタンメトリー (cyclic voltammetry, CV) とは、電極電位を直線的に掃引し、応答電流を測定する手法である。電気化学分野において、最も基本的であり、多用される測定法である。
[編集] 理論
もっとも単純な電気化学系として、Ox + e → Red という反応を考える。ここで、Ox は酸化体、e は電子、Red は還元体を示す。例えば測定物質がフェロセンであれば、Fe(III) が Ox、Fe(II) が Red となる。また、この系の酸化還元電位は +1.0 V とする。
電極電位を +2.0 V から 0.0 V まで掃引した場合を考えると、
- 電極電位が +1.0 V よりもずっと高いときは、電極近傍の物質は全て Ox として存在するため、電子移動は進行しない。ゆえに電流値はほとんど0である。
- 電極電位が +1.0 V に近づくと、徐々に電極から Ox への電子移動反応が進行する(上記式が右側に進行する、還元反応)。したがって、電極から電子が流れ出し、結果として電流値が負に増大する。この付近を電子移動律速という。
- 電極電位 = +1.0 V で、電極近傍での Ox と Red の濃度が等しくなる。
- 電極電位が +1.0 V より低くなると、電極近傍の物質はほとんど Red になるため、電子移動が起こりにくくなり、電流値が減少してくる。ただし、拡散によって Ox が少しずつ電極近傍に運ばれ、これが反応するので、電流値がゼロになることはない。この付近を拡散律速という。
- 電極電位が +1.0 V よりずっと低くなると、電流値はほぼ一定値になる。
通常はこのあと、逆方向に 0.0 V から +2.0 V まで電位を掃引する。Red が十分に安定な場合は上記の逆の反応(酸化反応)が起こるが、不安定な場合は分解が起こるため電流は流れなくなる。何度も往復を繰り返すこともある。
印加した電位を横軸、応答電流値を縦軸とするグラフを描くと、以上の過程により、酸化還元電位付近にピークを持つ、特有の形状を持った曲線であるサイクリックボルタモグラム (cyclic voltammogram) が得られる。
この形状から、電気化学反応の機構、あるいは物質の酸化還元電位や拡散係数などが求められる。また、優秀な電子材料には多数の掃引を行った後でもサイクリックボルタモグラムがほとんど変化しないことが要求される。すなわち、掃引回数の増加に従い流れる電流が徐々に少なくなっていく場合は測定の最中にサンプルの分解が起こっていることを示し、酸化還元反応を何度も繰り返し受ける電子材料には不適ということになる。
上記の議論はファラデー電流のみを考慮しており、非ファラデー電流の影響は考えていない。
[編集] 装置構成
サイクリックボルタンメトリーをはじめとする電気化学測定はコンピューター制御できる市販装置で容易に測定できるが、ポテンショスタットとファンクションジェネレーター、およびプロッターを組み合わせて自作したものを用いることもできる。
以下に最も一般的な3電極系における構成を示す。
- 作用極
- 作用極 (working electrode) は実際に物質との電子の授受を行う電極である。白金やグラッシーカーボン製のものを用いることが多い。最近では導電性ダイヤモンド電極などが注目されている。
- 参照極
- 参照極 (reference Electrode) は作用極の電位を決定する際の基準となる電極である。飽和カロメル(水銀)電極 (SCE, Hg/Hg2+) や銀電極 (Ag/Ag+) などがよく用いられる。
- 対電極
- 対電極 (counter Electrode) は作用極で発生するのと同じ電流値を系に返すための電極である。メッシュ状やコイル状の白金を用いることが多く、作用極よりもずっと大きな表面積が必要とされる。
測定は溶液を調製し、脱気したあと上記の電極を差し込んで行う。
- 溶媒
- 基本的にはあらゆる溶媒が使用可能である。ただし、溶媒によって電気化学的に安定な範囲(電位窓)が異なるため、測定したい電位範囲によって適切に選択する必要がある。無機物には水(緩衝液)、DMF、DMSO など、有機物にはアセトニトリルやジクロロメタンなどが用いられることが多い。測定対象によっては脱水・脱気が不可欠とされる。
- 溶質
- 通常 1 mmol/L 前後にする。あまり薄いと測定できないが、濃すぎると副反応が起こる可能性がある。
- 支持電解質・支持塩
- 溶液には測定したい物質の100倍程度の量の支持電解質と呼ばれるイオン性物質を加える。水系では塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム、有機溶媒系では過塩素酸テトラブチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウム塩がよく用いられる。