カラオケ法理
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カラオケ法理(からおけほうり)とは、外見上は著作物を利用しているように見える者(甲)と、外見上は著作物を利用しているように見えないが、甲の利用行為に関与している者(乙)がいたときに、乙が甲に対して著作物の利用の場や機会を提供し、甲の行為によって利益を得ているなど、甲と乙との間に一定の関係性が認められる場合においては、甲と乙を同一視し、乙もその著作物の利用主体(利用者)であるとみなす日本国著作権法の解釈をいう。この法理を適用する要件としては、主に(1)支配・管理性と(2)利益の取得性が挙げられる。
「カラオケ法理」の名称は、カラオケスナック店の著作権(演奏権)侵害が問われた「クラブキャッツアイ事件」の最高裁判所判決(昭和63年3月15日)で判示されたことに由来し、「クラブキャッツアイ法理」、「利用主体拡張法理」とよばれることもある。
同事件では、カラオケスナックにおいて客に有料でカラオケ機器を利用させていた店側に対し日本音楽著作権協会(JASRAC)が著作権料の支払いを求めたのに対し、店側は「著作権を侵害しているのはカラオケ機器を利用して歌を歌う客であり、店はただ機器を提供しているだけに過ぎず、著作権料の支払い義務はない」と主張した。これに対し最高裁は「店側はカラオケ機器を設置して客に利用させることにより利益を得ている上、カラオケテープの提供や客に対する勧誘行為などを継続的に行っていることから、客だけでなく店も著作物の利用主体と認定すべきである」として、店側に著作権料の支払いを命じる判決を下した。
この判決自体は法律関係者の間では概ね妥当なものと考えられているが、後のファイルローグ事件などにおいてはこの法理を元に、直接的な著作権の侵害者(ファイルを不正コピーした者)だけでなくそのためのツールを開発・提供した者についても著作権侵害を認め、損害賠償の支払いやサービスの停止を命じる判決が出されていることから、「今後同法理の拡大解釈により、著作権侵害の範囲が必要以上に広く認定され、Winny事件に見られるように、ソフトの開発等に伴うリスクが高まるのではないか」と危惧する意見も一部では出されている。
カラオケ法理については、著作権侵害の主体の認定の範囲において立法によらなければ認定し得ない者についても適用される場合があるのではないかとの指摘がなされている。この点、デジタル化・ネットワーク化時代においても著作権保護を確保するために、著作権侵害を効果的に拡大防止すべきと同時に、著作物の利用の促進を図るという観点から、物理的利用行為によらずに著作権侵害に関与している者のうち、いかなる範囲の者を差止請求の範囲とすべきかについて、立法措置が望まれている。 このことについては現在、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会司法救済ワーキングチームにおいて検討されているところであり、同チームによる検討結果が待たれるところである。