魏延
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魏延（ぎえん、？ - 234年）は、字（あざな）を文長（ぶんちょう）で、義陽郡の人。中国三国時代の蜀漢の武将。劉備の荊州時代以来の配下。また、『三国志集解』と『華陽国志』によると、庶民に落とされた前漢の諸侯王である斉国の中尉･魏勃の後裔とされる。
[編集] 経歴と生涯
庶民出身らしく、一兵卒からの叩き上げの軍人として初めは劉表に仕えるが、間もなく劉備に仕えた。勇猛果敢で統率力があったために劉備から重用された。211年の蜀入りの際には、劉備軍に随行し一隊長を努めてたびたび戦功を立てたので、その功績で、牙門将軍に昇進した。これ以前の経歴は不明である。
219年、漢中王に即位した劉備が成都に帰還する際、漢中の地を要害とした。家臣団は重鎮の張飛が起用されるであろうと思っていたが、予想に反して劉備は魏延を督漢中・鎮遠将軍に抜擢し、漢中太守を兼務させた。魏延が漢中太守に拝命された時の抱負として「曹操が天下の兵を集めて攻め寄せてきたならば、国家のためにこれを防ぎ、その将軍が十万の兵で攻めて来たならば、これを壊滅する所存でございます」と語ったという。このように魏延は劉備から絶大の信頼が篤かったことが窺える。
221年、劉備が皇帝に即位すると、鎮北将軍に昇進した。
223年、劉備が死去し、丞相である諸葛亮が蜀の全権を握った後も、引き続き漢中の守りの要として重用された。漢中は魏との最前線であり、失えば蜀の存亡にも関わる要地である。劉備のみならず、諸葛亮からもその能力を高く評価されていたと思われる。
227年、第一次北伐のため諸葛亮が漢中に入ると、魏延は丞相司馬・涼州刺史に任命された。この時、魏延は北伐に際して南鄭から子午谷を抜けて長安を攻める奇襲ルートを提案した。しかし、諸葛亮はこの献策を採用しなかった。理由としては、行軍路に伏兵がいる可能性や、補給路の確保が難しいために、長安を占拠しても、その後の維持が困難であること。更には、長安首元の潼関の未確保で蜀軍がかえって孤立する恐れがあった事が挙げられる。これは蜀漢の国力が未だに不安定だったことや、その西方の祁山付近にある安定郡などの隴西地方を確保したほうが、リスクが少なかったためだといわれている（もっとも『三国志』では、「潼関で諸葛亮と落ち合う」つもりだったとしており、長安急襲策とは必ずしも確定できない）。このように戦略面で常に慎重な諸葛亮とはしばしば意見が食い違い、彼を臆病者と呼んでいた。このあたり、同じように気位が高く、身分の高い者には傲慢であった関羽と似た性格といえる。
230年には羌中で魏の将軍費瑤・郭淮を打ち破るなどの功績を挙げている。その功績で、前軍師・征西大将軍・仮節に昇進し、南鄭侯に封じられた。
魏延は勇猛で誇り高く、他の諸将は彼を敬遠していたが、諸葛亮の有力な幕僚である楊儀だけは公然と手向かった。そのため楊儀との間の仲は特に悪く、軍議の席で言い争いになると、魏延は楊儀に剣を突きつけ、楊儀が泣くということもあったという。これは魏延の武勇・楊儀の才幹、いずれも高く評価していた諸葛亮にとって頭痛の種であった。
234年、諸葛亮は再び北伐に出陣し、魏延が先鋒となった。魏延は諸葛亮の軍営から10里（約5㎞）のところにいたが、ある日自らの頭に角が生えるという夢に悩み趙直という人物に相談した。趙直はごまかして「麒麟は角を持っているが用いることはありません。これは、戦わずして賊軍が自壊する象徴であります」と言ったが、魏延が退座すると、近くの者に本当の占いの結果を漏らした。「角という字は刀の下に用いると書く。頭の上に刀が用いられるのだから、その不吉さは大変なものだ（つまり魏延の首が落とされるという暗示）」。
『三国志演義』では、諸葛亮が死去した日に見た夢として、さらに趙直が真意を打ち明けた相手を費禕に特定することで、物語の伏線として盛り上げている。
諸葛亮が布陣した五丈原で病に倒れた際、内密に楊儀・費禕・姜維の三人を呼び寄せた。そして魏延には敵の追撃を断たせ、もし命令に従わなければ、魏延を置き去りにして撤退するよう指示をした。諸葛亮が病死すると、楊儀は費禕に頼んで、魏延の意向を探らせた。魏延は自分が指揮官となって北伐を継続するよう主張し、楊儀の指揮下に入ることを拒否したので、楊儀らは予定通り撤退を開始した。魏延は怒り、楊儀が戻れないよう先回りして橋を焼き落とした。さらに、楊儀が反逆したと劉禅に上奏したが、楊儀も魏延が反逆したと上奏した。相反する二つの上奏を受けた劉禅は、どちらが正しいかを董允と蒋琬に問うた。二人はいずれも楊儀の肩を持ち、魏延を疑った。楊儀は王平を先鋒にして魏延に当たらせ、王平が魏延の兵士に向かって「公（諸葛亮）が亡くなり、その身もまだ冷たくならないうちに、お前たちは何故こんな事をしようとするのか！」と一喝すると、魏延の兵士たちは、彼を見捨ててことごとく寝返り、軍は総崩れとなった。取り残された魏延は息子たち数人と漢中に出奔したが、楊儀は馬岱に追跡させ、魏延父子を斬り殺させた。魏延の首が楊儀の元に届いた時、楊儀は、「庸奴（愚か者）め、もう一度悪さをやれるならやってみろ」と言って首を踏みつけたという。こうして魏延の三族は処刑された。
陳寿の考察によると、魏延が北へ行って魏に降伏せず、南に帰ったのは、政敵の楊儀を殺そうとしたためである。そうすれば、普段は自分に不同意だった諸将も、諸葛亮の後継者として自分を望むようになるに違いないと期待していた。魏延の本心は以上であって、謀反を起こそうとしたのではない。ただし、彼の本心はそうであれ、客観的に見て、総司令官である諸葛亮の長史（主席幕僚、この場合は丞相代理）だった楊儀の命令に従わず、あまつさえ彼を討とうとしたことは、明白な軍令違反であり、謀反と判断されてもしかたない。他の諸将が彼に従わなかったのも、配下の兵士に見捨てられたのも、楊儀によって殺されたのも当然といえる。
[編集] 三国志演義
『三国志演義』では、魏延は初めから劉表配下の親劉備派の将軍として劉備を迎える手筈を整えていた。ところが曹操軍の大軍から逃れるために民を引き連れた劉備軍が襄陽の城に現れた時に、既に曹操に降伏した蔡瑁軍が突然劉備軍に目掛けて弓を引いて攻撃した。それに怒った魏延が蔡瑁に対して反乱を起こした。その後長沙太守・韓玄の配下となった魏延は劉備の荊州の南4郡を攻めの時に同僚の黄忠が敵の関羽の一騎打ちの折に、黄忠の行動に対して韓玄が疑い黄忠を斬られそうになったときに民や兵士を先導させて共に反乱を起こして韓玄を斬り、城を開け降伏した。その後劉備の将になったが、その時の行動（主君を裏切る行動）に対して、諸葛亮は「反骨の相」があると言い、魏延を斬るように進言した。その時に諸葛亮に対して劉備が丸め込んだ為に斬られずに済んだが、その後ほかの武将に比べて信用が薄いように描かれている。ところが、同じく武陵太守・金旋を裏切り、殺して投降した鞏志（正史に記述はない）については、諸葛亮は何も言っていない。
それからもしばしば諸葛亮は彼を亡き者にしようと申し立てたが、劉備が彼の武を認め、諸葛亮を説得させる。その後も諸葛亮はことあるごとに魏延を排除しようとしていた事が物語には描かれている。
魏延は、勇猛果敢な将軍で有ったが、やや驕慢な部分がありそれが命取りになった。おそらく他の武将との人間関係が悪いため、魏延を進んで弁護する者がいなかったのだろう。陳寿も魏延の冤罪を指摘していながら、人物評では「自分の責任でないとは言えない」と手厳しい。その部分が『三国志演義』では着目されたようである。鞏志との扱いの差も、魏延の最期から逆算した上での創作と思われる。
北伐の中で病で倒れ、自分の寿命があと少しで尽きると知った諸葛亮は寿命を延ばすための祈祷を始めた。それを察した司馬懿は祈祷を止めるために戦を仕掛ける。魏延は祈祷の事を全く知らなかったため、諸葛亮の所へ乗り込んで魏軍が攻め込んできたことを伝えようとした。その時に祭壇を荒らしてしまい諸葛亮の祈祷は失敗する。祈祷に参加していた姜維が魏延を斬ろうとするが、諸葛亮は「これは天命なのだ」と言い諦めてしまう話がある。
諸葛亮の死後、楊儀と対立した。常々諸葛亮と反発していたこともあって、謀反人であるとされた。王平らが率いる軍にも攻め立てられて、ついには成都城門前に追い詰められることとなった。最期は、魏延を侍っていた馬岱に斬られたが、これは諸葛亮の策であった。
疑問点としてあるのは、南蛮王孟獲との戦で描かれた、諸葛亮とのやりとりである。兀突骨との戦では、負け戦を演じよという諸葛亮の指示に従い、兀突骨を火計地点に呼び寄せる策を成功させた。また、何度も魏延に敗北させた事について諸葛亮が直接魏延をねぎらったりしている。孟獲戦では他にも趙雲と共に功績を挙げ諸葛亮に絶賛された。南蛮での関係だけを取り出して見た場合、二人の間にこれといった対立は見られない。それどころか、良好な関係にあるようでもある。北伐に入った頃から、まるで「反骨の相」の話を突然思い出したかのように、名将と名宰相の溝が深まっていくのである。
これらの説の影響なのか、魏延は中国では尋常でないほど嫌われており、現在彼の廟のあった所には鉄道が走っている（鉄道開通の時に壊され移転すらして貰えなかったという）。
