角換わり

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角換わり（かくがわり）は将棋の代表的な戦法の一つである。ゲーム開始まもなく、攻撃力の強い角行という駒を互いに交換し、相居飛車（双方が飛車を横へ動かさずに戦うこと）で戦う。初級者から中級者にかけては、序盤で持駒の角行を打ち込むことができるため、自由度の高い戦法である。しかし上級者以上になると、角行の打ち込みを避けて双方が自陣に気を配るため、指し手の可能性はかなり限定される。プロであればなおのことである。そのため、プレイヤーのレベルが上がるほど変化の幅が狭く、横歩取りと並んで精緻な研究が進んでいる戦法の一つとされる。

[編集] 戦法の概要

一般的に、先手が攻め込んで後手がカウンターを狙う。そのため、先手が攻め込むタイミングを外せば戦線膠着に陥り、千日手（決着がつかない場合の措置で、先手、後手が交代して指し直し）に至る。アマチュアにとってはつまらない展開だが、プロにとっては先手であること自体がわずかに有利であるため、千日手に持ち込めば後手の作戦成功とみなされる。従って、そもそもカウンター狙いの後手に攻め込んで先手が攻めきれるのか、このことが数十年間研究され続けている角換わりのテーマである。先手の勝率が比較的高い戦法の一つであり、2004年頃より流行している後手番一手損角換わり戦法でも、先手勝率は6割程度である。この戦法を得意とする代表的なプロ棋士として、谷川浩司や丸山忠久などが挙げられる。

角換わりにおいては、5筋の歩をつくと△3九角（または▲7一角）から馬を作られるなど、自陣にスキが生じやすい。そのため、「角換わりには5筋を突くな」という将棋の格言がある。

[編集] 最初の共通手順（初手から12手まで）

▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8五歩▲7七角△3四歩▲8八銀△7七角成▲同銀△4二銀と進む。（ただし、昭和60年代までは5手目が▲2五歩。）途中、後手が角交換をして手損をしたように見えるが、先手が角を7七に動かした一手を無駄にしているので、双方手損はない。

先手の8八銀に対する後手の10手目で、△4二銀と変化することは可能である。その場合、先手から▲2二角成と角交換をする。△同金の一手に、▲7七銀△3二金で上述の手順と同型になる。

ここから、角換わり棒銀、角換わり腰掛け銀などの戦法へと移行する。かつては角換わり早繰り銀という戦法も採用されていたが、最近のプロの実戦ではあまりみられない。

（以下の変化は、角換わり棒銀、角換わり腰掛け銀、角換わり早繰り銀を参照。）

[編集] 戦法の歴史

角換わりの中でも、半世紀以上の研究が続けられているのが、先後同型の角換わり腰掛け銀である。この戦法の研究を軸として、他の戦法の歴史も推移していった。従って、ここでは角換わり腰掛け銀の歴史を中心に述べる。

[編集] 木村定跡

プロの角換わりは指し手が限定されるため、両者が慎重に駒組みを進めていく。その結果、40手目に駒組みが限界にまで達して手詰まりになる。ここで先手が攻めなければ千日手（先後交替で指し直し）なので、41手目に先手が攻撃開始を余儀なくされる。この攻めが成立するかが角換わり戦法の焦点となった。昭和30年代、この形に結論を出したのが木村義雄であった。現在では、41手目からの先手の攻めは、後手の投了（負けをみとめること）近くまで研究がなされている。この41手目からの一連の指し手は木村定跡と称される。

（詳細は木村定跡を参照）

角換わり同型

従って、木村定跡で先手優勢（先手勝勢に近い）であるため、絶対に後手はこの形にできない。そのため、40手目に後手から攻め込まざるをえないが、こうすると、木村定跡の応用で後手が指せることが分かった。従って、双方が矢倉囲いの中に王を動かす前である39手目（現在の角換わり腰掛け銀同型、図）に先手が攻め込んだらどうなるのかということが課題となった。まだ昭和30年代には精緻な研究が成されていないものの、若干先手が指せるという見解が強かった。そのため、後手はひたすら千日手を狙う専守防衛の構えをとった。この後手陣の撃破が困難なため、角換わり戦法は採用されなくなった。

[編集] 飛車先保留

角換わりの歴史に大きな影響を与えた新手が、昭和60年代に発見された5手目の▲7八金であった。（それまでは▲2五歩。前述。）歩を突かないことで、2五に桂を跳ねる余地を作ったのである。この飛車先の歩突き保留は、のちの角換わり一手損戦法にも通じる発想であった。この手の発見によって、専守防衛を狙った陣形でも先手から打開することが可能になったため、再びよりカウンターの攻撃力が高い図の戦型に回帰することになった。

その後、昭和末期より約20年ほどの研究が積まれたが、図の形もやや先手が指せるという研究結果になりそうである。そのため、一方的に攻められた上に主導権も握れない後手は、角換わりを採用する魅力を感じなくなった。（佐藤康光のように、極力後手番でも角換わりを受けて立ち、なおかつカウンター狙いでなく攻撃姿勢をとる棋士もいるが、プロのなかでは少数派である。）さらに、1990年代末に出現した横歩取り8五飛戦法が高い後手勝率をほこったため、後手がわざわざ角換わりを受けて立つ必要もなく、角換わりの採用率は低下していた。

[編集] 後手番一手損角換わり戦法

この現状に変化をもたらしたのが、後手番一手損角換わり戦法の出現であった。既出の図において、もしも後手の8五歩が8四であれば結論が変わりうる。さきほどの先手2五歩保留と同様で、後手に△8五桂と跳ねる手が生じ、カウンターの破壊力がさらに増すからである。しかし、将棋には一手パスというルールが存在しないため、30手ほど先の手詰まりを見越して、序盤に後手が無理矢理角交換を行う。

従って、「一手損」戦法と称するが、主旨としては「一手パス」戦法である。この状態で駒組みの飽和状態（38手目）に達すれば、39手目からの先手の攻撃に対して8五桂からのカウンターが決まる可能性が高い。従って、先手は攻撃をせかされる形になる。不十分な形で攻め込むため、「一手パス」をした後手のカウンターが決まる場合もあるが、単に駒組みで「一手損」したことで、そのままつぶされる可能性もある。

角換わり一手損戦法の流行には、他の戦法との関連も考慮に入れなければならない。まず、横歩取りブームの沈静化である。8五飛戦法による後手勝率も下がり、横歩取りの魅力が低下している中、いまだ定跡の開拓されていないこの戦法に注目が集まった。実はこの戦法も後手勝率は低いのだが、研究を外して力戦に持ち込めるというメリットも、力将棋に自信のあるプロが採用する要因であろう。

（詳細は後手番一手損角換わり戦法を参照）