経済貿易緊密化処置

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』

経済貿易緊密化処置（けいざいぼうえききんみつかしょち、中国語: 関於建立更緊密経貿関係的安排、英語: Closer Economic Partner Ship Arrangement; CEPA）は、中国本土の関税領域と、香港もしくはマカオとの間の自由貿易協定 (FTA) である。中国、香港、マカオともに、初めてGATT24条に基づくFTAとしてWTO地域貿易委員会へ通報したものである。なお、東南アジア諸国連合 (ASEAN) と中国間では、将来のFTA締結の約束と、一部分野の早期実施のみが実現しているに過ぎない。

[編集] 名称の政治的問題

経済貿易緊密化協定と和訳される事が多い。しかし、中国政府はFTAを主権国家間で締結されるものと誤認しているため、中国語では「協定」の呼称を避け、当初は「FTA類似処置」と呼称されていた。これは、台湾がFTAを国際社会での活動範囲を広げる政治的な手段に利用するのではないかと、中国政府は懸念し、台湾と第三国のFTAに反対しているという事情がある。香港にFTA締結を認めれば、台湾のFTA締結権能を否定できなくなるからである。

[編集] 協定内容

世界貿易機関 (WTO) には、関税および貿易に関する一般協定 (GATT) 24条およびサービス貿易一般協定 (GATS) 5条に基づくFTAとして通報されている。物品貿易、サービス貿易、投資の他、中国本土住民の香港（個人）旅行（「個人遊」もしくは「自由行」）の解禁など、協定が対象とする分野は幅広い。香港は自由貿易政策を採っており、物品貿易において譲許がないのは自然である。だが、香港域内の参入規制が残っているサービス分野でも香港側の譲許は全くない。そのため、CEPAは中国本土側の一方的な譲許のみで成り立っている。

協定は、ステップバイステップの交渉において調印されたため、三段階に分けられる。2003年6月に締結された本協定、同年9月の付属文書（開放分野や原産地規則および香港企業の定義などCEPA適用の条件を含む）をあわせて、第一段階（CEPA I、施行は2004年1月～12月）呼ばれる。2004年10月に補充協議が合意され、第二段階（CEPA II、施行は2005年1月～12月）と呼ばれる。さらに、2005年10月に二次補充協議が合意され、第三段階（CEPA III、施行は2006年1月～）と呼ばれる。第三段階をもって、CEPAは一応完成したことになっている。

[編集] 問題点

しかし、物品貿易について、本協定や二次補充協議は全品目を対象とすると規定しているが、実際には原産地規則が定められていない品目がある。これらは、企業の申請に基づいて、半年毎に原産地規則を制定される予定である。ただし、制定までに半年から1年あるいはそれ以上の時間がかかる。また事後的な制定であるため公平かどうかという問題も残る。中国・香港政府は、現段階での貿易のほとんどをカバーしており、現状でもWTOとの整合性に問題はないとしている。

サービス分野や投資に関しては、日本が東南アジア諸国と締結した経済連携協定 (EPA) と比較しても開放分野や程度が低い。また、中国本土の未整備な法制度や地方政府などの障害も多い。そのため、法務部門を持ち、障害に対応できる大企業（流通・物流など）では恩恵を受けている例もある。しかし、当初香港で喧伝された中小企業や個人事業主の営業、専門職の就労や開業については、必ずしも期待通りの成果が出ていないとの批判もある。

むしろ、香港経済への効果が顕著だったのは、中国本土住民の香港（個人）旅行であったと言われる。特に恩恵を受けたのは旅行代理店、ホテル、小売などである。また、小売店が彼らから人民元での支払いを受け付けるようになり、香港域内での人民元の流通増加の一要因にもなっている。