福建語
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- 広義には中華人民共和国の福建省、広東省東部及び西南部、海南省、浙江省南部、中華民国、シンガポール共和国、マレーシア及び各国の華僑・華人の一部の間で使用される言語をさす。別名を閩語ともいう。広義の福建語の推定使用人口は7000万人程度である。
- 狭義には厦門、泉州などの福建省南部で話される閩南語を指し、中華民国で台湾語またはホーロー語と呼ばれている方言も閩南語の一種とされることがある。
[編集] 系統
中国語は一つの言語というより、ゲルマン語派のような福建語、広東語、上海語などの方言語族の集合体と考える意見もある(王育徳「台湾語入門」)。この集合を漢語派という名前で呼ぶ場合もある。しかし、国単位での分布があることや、同系の共通語である普通話の存在や、漢字という共通の正書法の存在などから、一般的には中国語という言語と捉え、それを十大方言、もしくは七大方言に分けて、考えることが多い。広義の福建語はそのいずれにも挙げられている主要な方言である。
また、広義の福建語は福建省の中でもさらに5方言に分かれているとされる(建甌などの閩北方言、福州語などの閩東方言、莆田 ・仙游などの興化方言、 厦門・泉州・漳州などの閩南方言、永安・沙県などの閩中方言)。潮州語は主に広東省で、海南語は主に海南省で話されるが、閩南方言に近い。広東省西南部の雷州方言は海南語に近い。
[編集] 特徴
声調が北京語の4声に比べて狭義の福建語の場合8声前後と多く、発声、語彙、文法の面で、古中国語の残存が見られる。広義の福建語の内部では、例えば「鍋」を「鼎」と呼ぶなどの語彙の共通性がみられるが、これも古中国語を残存している。「飲む」は北京語では「ホー(喝he)」だが福建語では「リム」となり、古中国語の「イム(飲)」の残存と見られる。ちなみに日本語の「イン(飲)」や広東語の「ヤム(飲yam)」も同様に古単語の残存とされる。これは北方民族の襲来などにより、かつて中原にいた漢族が南遷したため、その時代の中国語が中国南部や海外に残されたものだと考えられる。
以下に対応表をのせておく。
日本語(漢字の音読み) | 北京語 | 福建語(狭義) |
---|---|---|
モク(目) | イェン(眼, yan) | バク(目, ba̍k) |
ソウ(走) | パオ(跑, pao) | ツァウ(走, cháu) |
ショク(食) | チー(吃<喫>, chi) | チャア(食, chia̍h) |
ガ(我) | ウォ(wo) | グア(góa) |
カ(家) | チア(jia) | カ(ka) |
フツ(仏) | フォ(佛, fo) | フッ(佛, hu̍t) |
イチ(一) | イー(yi) | チッ(chi̍t) |
ニィ(二) | アル(二, er) | ヌン(兩, nn̄g) |
ゴ(五) | ウ(wu) | ゴ(ngó·) |
ロク(六) | リョウ(liu) | リョク(lio̍k), ラク(la̍k) |
このように日本語・福建語ともに連続的に同型単語が見られ、その変化を計測し、また古民謡などと比較検討すると、福建語は春秋時代の洛陽地方の言語という説が有力である。実際、福建地方では洛陽地方から南下してきたという家伝をもつ一族が少なくなく、また論語なども福建語読みすると声調が整うとも言われている。
また台湾では繁体字が使用されるが、福建省では簡体字が使われており、字体は福建語そのものの性質ではなく、政治的な理由によるものである。(中国語参照)。そもそも福建語そのものには正式な文字はなく、繁簡の字体差は北京語の表記問題である。
[編集] 被借用語
日本語における狭義の福建語からの借用語としては下記の様な例がある。
- ビーフン[米粉]bí-hún
- レンブ[蓮霧](オオフトモモ)lián-bū
- ケチャップ[鮭汁](マレー語、英語経由)
- サバヒー[蝨目魚](和名)sat-ba̍k-hî
- レンヒー[鰱魚](レンギョの別名)
- ヌンチャク[兩節(棍)]
- タンキー[童乩]tang-ki(道教のシャーマン)
英語の "tea" やフランス語の"té"など、一部の西欧の言語における茶の呼び名は、福建語のテェ(茶)に由来する。これは、福建省を中心とした地域が貿易の中心地であったためである。