矢立峠 (秋田・青森県境)

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矢立峠（やたてとうげ）は、秋田県（旧羽後国）と青森県（旧津軽国）の県境にある峠である。行政的には、秋田県大館市と青森県平川市（旧碇ヶ関村）との境界の一部でもある。

[編集] 概要

標高は258m。秋田県側へと流れる下内川（米代川水系）と青森県側へと流れる平川（岩木川水系）の分水嶺ともなっている。地理的には、峠の東側にある奥羽山脈と西側にある白神山地との中間にある。

古くから林業が盛んで、特に秋田杉の名産地の一つとして知られ、高度経済成長期の頃までは、樹齢200年以上・高さ40ｍ以上の秋田杉が数多く自生していた。

[編集] 交通の難所

旧羽州街道では有数の難所の一つでもあり、江戸時代には、津軽藩が津軽国側に関所を設置した。当時、この碇ヶ関関所の警備は、東海道沿いに設置された関所以上に厳しかったとも言われている。

江戸時代後期には、南部藩（現：岩手県）を脱藩した浪人である相馬大作（本名：下斗米秀之進）らによる津軽藩藩主狙撃未遂事件の舞台ともなった（相馬らによる狙撃計画が実行される前に危機を察知した津軽藩藩主が、日本海沿いの大間越街道経由で、江戸での参勤交代から津軽藩領内に帰還したため、未遂となった）。

現在は、国道7号と奥羽本線が峠を通っている。現在の奥羽本線は、1970年（昭和45年）11月に完成した新線の長大トンネルである矢立トンネル（全長は3,180m。陣場駅－津軽湯の沢駅間）や、白沢駅－陣場駅間の松原トンネル（全長は2,404m。下り線のみ）などで峠を越えているが、それまでの旧線時代は、25／1000（25‰）の急勾配と急カーブ、それに７つのトンネル（もっとも長かったのは、中間地点に県境がある全長702ｍの旧第四矢立トンネル）などが連続していたため、奥羽本線自体や大阪－青森間の日本海縦貫線でも有数の難所の一つとして知られ、蒸気機関車の全盛期には、陣場駅－碇ヶ関駅間などでD51の三重連牽引の貨物列車などが運転され、SLブームの頃の1960年代中期から1970年までは、旅客列車や貨物列車を牽引し、（補機を連結して）峠越えで奮闘するD51やC61（1968年頃までは、C60も活躍していた）をはじめとする蒸気機関車などの雄姿を撮影するために全国各地から集まった鉄道ファンで賑わった（新線切り替え直前の1970年には、NHKテレビの紀行ドキュメンタリー番組『新日本紀行』(の9月21日放送の回)において、「三重連の峠～秋田・青森県境　矢立峠～」のタイトルで、矢立峠越えのD51三重連がテーマとして取り上げられたことでも有名である）。

なお、この矢立峠越えの区間が現在の新線に切り替えられた翌年の1971年（昭和46年）に、奥羽本線の秋田－青森間は、矢立峠越えの区間を含めて電化が完成している（正式な電化開業は、同年10月のダイヤ改正時からである）。それまでの間に、矢立峠越えの区間を含めて、大館駅－長峰駅（青森県大鰐町）間の区間は、複線化を完了している。

日景温泉入り口付近、矢立温泉付近や道の駅やたて峠付近、相乗温泉付近などの国道7号沿いには、現在でも、新線への切り替えにより放棄された旧線跡の遺構（橋梁の橋脚や橋台、レンガ造りのトンネルなど）が、点在する形で残っている。また、陣場駅の近くにも、国道7号と並行する形で、旧第二下内川鉄橋の遺構が現存している。さらに、津軽湯の沢駅の近くには、国道7号を跨ぐ形で建設された旧線のコンクリート高架橋なども残っている（津軽湯の沢駅付近の国道7号と交差する部分の旧線が一部分だけ高架橋化されたのは、1960年代前半から半ば頃にかけて、国道7号の改良工事が実施された時である）。

なお、新線への切り替えの際に、陣場駅と津軽湯の沢駅の両駅は、旧駅のあった位置よりも、若干だけ移転している。

また、国道7号についても、現在、矢立峠越えの区間において、バイパスの建設工事が進められている。

[編集] 周辺情報

峠の周辺は豊富な温泉に恵まれ、日景温泉や矢立温泉、相乗温泉をはじめとする1軒宿の温泉や、碇ヶ関温泉郷などの小さな温泉郷が点在する。また、秋田県側の大館市長走陣場地区には「道の駅やたて峠」、青森県側の平川市（旧碇ヶ関村）には「道の駅いかりがせき津軽関の庄」がある。いずれの道の駅も国道7号沿いにあり、「道の駅やたて峠」には、「矢立峠温泉」も湧出している。また、「道の駅いかりがせき」にも、「関の庄温泉」と呼ばれる温泉入浴施設があり、温泉の熱を利用した屋内温水プールや温泉資料館なども併設されている。

その他、峠の周辺の観光地としては、秋田県側の大館市長走地区には長走風穴群（資料館の「長走風穴館」も建っている）などがあり、青森県側の平川市（旧碇ヶ関村）には津軽湯の沢駅の近くに「碇ヶ関御関所」（藩政時代の碇ヶ関関所の建物を復元し、資料館としたもの）があったが、現在は「道の駅いかりがせき」に移設された。