浅井久政
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浅井 久政（あざい ひさまさ、淺井 久政、大永6年（1526年） - 天正元年8月27日（1573年9月23日））は日本の戦国時代の武将で、近江の戦国大名浅井氏二代当主。受領名は下野守。
ドラマなどで「浅井」が「あさい」と読まれることも多いが、上記の通り「あざい」が正しい。
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[編集] 家系
浅井亮政の子。母は側室尼子氏の娘(近江国における尼子氏)（生母については、『六角佐々木氏系図略』、「浅井過去帳」に浅井千代鶴女とある。この女性は六角宗能（親泰）側室で、久政は養子であり、尼子氏は養母であるとも。）。妻は近江豪族井口経元の娘小野殿（阿古御料人）
子に岡崎安休（本願寺顕如乳兄）、阿久姫（昌庵見久尼）、近江の方（斉藤義龍室、斉藤龍興母）、京極高吉室（京極マリア）、浅井政元、浅井政之、大文字屋新十郎ら。
孫に淀殿、常高院、崇源院。曾孫に豊臣秀頼、徳川家光、徳川忠長、徳川和子ら。玄孫に明正天皇、徳川家綱、徳川綱吉ら。
[編集] 久政の人生
1542年に父・亮政が没したため後を継いだが、武勇に優れた父とは対照的に武勇に冴えなかった。亮政は正室との間に生まれた一女「鶴千代」の子田屋明政（田屋氏は浅井一族）に家督を譲ることを望んでいたともいわれるが、側室との間に男児が生まれたため久政が家督を継ぐこととなった。そのため義兄田屋明政は久政の家督相続を承服せず反乱をおこすなど久政の家督相続は家中に少なからず禍根を残す結果となった。久政が当主となってからの浅井家は次第に六角氏の攻勢に押されてついにその配下となってしまった。嫡男に六角義賢の一字 賢の字を偏諱として受けさせ、「賢政」と名乗らせたりその妻に六角氏家臣平井定武の娘を娶らせるなど、六角氏に対しては徹底した従属的姿勢をとった。このような久政の弱腰外交に家臣たちの多くが不満をもつようになり、1560年に久政の嫡男・浅井長政（賢政より改名）が野良田の戦いで六角義賢に大勝し六角氏から独立すると、家臣たちから家督を長政に譲ることを強要され、強制的に隠居させられることとなった。一時は竹生島に幽閉されていたほどである。しかしこのクーデター的家督移譲には不明瞭なところが多く、久政は隠居してもなおも発言力を持ちつづけ、父以来の朝倉氏との友好関係に固執し、新興勢力の織田氏との同盟関係の構築には終始反対しつづけたとされる。
しかし、この久政と長政との曖昧な関係が結果的には浅井家滅亡の遠因となってしまう。織田と朝倉が対立を深め、両家と同盟関係にあった浅井家はどちらにつくかの決断を迫られた場面で久政は強硬に朝倉方につくべきであると主張し、長政が折れる形で信長に反旗を翻すこととなった。結果的に数年間の抵抗の末、浅井・朝倉連合は織田氏に敗北し、1573年、織田軍の猛攻を受けた久政は、小谷城京極丸にて自害し、長政もやがて自刃し戦国大名浅井氏は三代で終幕した。
[編集] 久政の再評価
一般に久政は、時の流れを読めなかった暗愚な当主とされることが多い。久政暗愚説の根拠となっている歴史書の多くが学術的には偽書と位置付けられており、後年になって誇大に記述されたり、脚色されたものがほとんどである。最近の有力説に久政がそれほど無能ではなかったという説がある。
[編集] 六角氏への従属の再評価
浅井・朝倉同盟は久政の父で長政の祖父である浅井亮政の代には存在した。亮政は南近江守護であり、かつての主家である北近江守護京極家の本家筋である六角家と対立していた際に、朝倉氏との同盟を築き上げた。当時の六角家は名君六角定頼を筆頭に日の出の勢いであり、その優劣は決して亮政の才で補えることは出来なかった。その為に、亮政は美濃や越前へ幾度も逃亡している。そして、当時の朝倉家も六角家に劣らぬ全盛期を築き上げていた。朝倉家にしても、北に一向一揆という爆弾を抱えており、大勢力である六角家との直接対立は決して望むものでは無い。その為に、緩衝地帯として北近江を手中に収める浅井氏との同盟はかなり、理にかなったものあった。両者そろって利が一致したために、朝倉・浅井同盟は築かれたのであろう。
しかし、朝倉孝景と朝倉宗滴が世を去った後朝倉家は、次第にかつての勢いを失っており同盟の意味が薄まっていった。だからこそ、久政は朝倉家から六角家へと乗り換えたのだろうと思われる。六角氏に臣従した時、浅井家は他にも京極氏や隣国美濃の斉藤道三にもたびたび攻撃され、窮地に陥っていた事実があるのである。ここで六角氏に臣従し庇護を受ければ、その他の勢力を牽制し、侵攻を食い止めることができ、領国経営に専念することができるのである。現に久政は治水事業による生産力の向上や、徳政令による領民たちの生活基盤の安定化、そして先代亮政が武力によって傘下におさめた土豪たちの掌握につとめ浅井家を戦国大名と押し上げる基礎をこの時期に築きあげることに成功していた。さらに六角勢力内といっても大名としての家名を保ち領土も削られていないのは、従属大名としては稀な例である。かの松平家でも今川義元や織田信長に領土を一部明け渡している。このことからすると久政は優れた外交能力を持っていたのではないかと思われる。弱腰と見られがちな形でも領国内を守るにはひとつの手で、外交の分野では成功を収めたのではないだろうか。
[編集] 長政への家督移譲の再評価
通常、戦によるよらずともクーデターという実力行使によって家督を継いだ場合、前代当主の家中における発言力は皆無になることが常である。しかし、久政が竹生島に幽閉されていた時、長政ならびに長政派の家臣たちと和解という形で小谷城に帰還していることなどからすると、浅井家中にある久政に対する不満を長政に家督を譲らせることで沈静化し、家臣団の結束を高めるためのクーデターに過ぎなかったとみるべきであろう。決して久政自身の政治力を剥ぐためのものではなかったということである。それに、クーデターを起こされた君主が権力を維持していれば、逆に反乱を起こされる危険性がある。そうした要因を考慮すれば、やはりこれは六角家からの独立を正当化するための芝居であった可能性が高い。
[編集] 織田氏との敵対の再評価
久政が朝倉方につくべきだと主張した理由として、『亮政の代から同盟関係であること』、『度重なる斉藤、京極、六角の諸氏の攻勢に共闘した大恩』、『久政自身が信長の性格や方針に懐疑的であったこと』などがあげられている。しかし、そうであれば朝倉家が主家である斯波家から、半ばその領土を奪う形で越前を乗っ取った時点で、織田家と朝倉家は仇敵な存在になっており、朝倉家から見ればそのような存在である織田家の当主である信長の妹を、息子の正室に迎えるような事はしなかったはずである（それに、もし朝倉家との同盟関係があるのなら、六角家に服属するようなこともしないはずであり、朝倉・浅井同盟なるものは存在しない可能性も指摘されている。）。つまり、久政が織田氏を見限り朝倉氏との共闘を選択したのは、従来のような復古的・情緒的な理由ではなく、あくまで戦国大名としての戦略的な思考によるものによるではなかったのかと思われる。
結果的には戦国大名としての浅井氏の滅亡に招いたことから、久政は時の流れを読むことができなかった暗愚な当主と言われるようになった。だが、金ヶ崎の撤退から後に出来た、三好、朝倉、石山本願寺、武田、そして浅井家による信長包囲網の時点に置いては、信長が最も窮地に立たされた時期であったために、その評価はあまりにも狭量すぎる。この時はこれだけの強敵に囲まれており、誰もが信長は滅ぶと思っていたが、幸運と信長独自の戦略眼によってその窮地を上手く脱出出来たからこそ、信長は勝利しただけの話である。決して久政は暗愚な当主ではなく、むしろ信長ほどではないが、優秀な戦略眼を持った戦略家であったことは間違いはない。
