地理学
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地理学(ちりがく 英:geography 独:Geographie(-fie)またはErdkunde 仏:géographie)は、空間ならびに自然と、経済・社会との関係を対象とする学問の分野。空間や自然環境という物理的存在を対象の中に含むことから、社会科学と自然科学という両面の性格を有する。医学・哲学とともに人類最古の学問の分野といわれている。
元来は農耕や戦争、統治のため、各地の情報を調査しまとめるための研究領域として成立した。しかし現在は、自然科学ないし人文科学の一分野として、各地ごとに異なる空間的異質性を説明することが求められるようになった。
地理学の内部は、大きく系統地理学、地誌学、地図学、地理学史の4つに分類される。系統地理学はさらに自然地理学・人文地理学に分けられ、それぞれがまた細かく分類される。ただし、自然地理学の諸分野は地球科学の影響を受け、その中でも時に生態学や気象学、地質学などと連携されることが多い。人文地理学は歴史学・社会学・経済学などの近隣分野の影響を受け、それらの知識ならびに隣接分野の理論の十分な理解が要求される学問である。また、自然・人文ともにフィールドワークや巡検を実施し、実地調査に基づく研究成果を重視する傾向があるのが特徴である。
目次 |
[編集] 地理学の歴史
詳細は、地理学の歴史を参照の事。
地理学誕生の地は、古代ギリシアである。学問としては、最古の部門に属した。その源流は、各地の様子を記載する地誌学的なものと、気候や海洋について研究する地球科学的なものとに見ることが出来る。中世には停滞を招いたが、大航海時代による爆発的な地誌の拡大や、17世紀以降の自然科学の発達と観測機器の発達は近代地理学の成立へと導いた。現在見ることのできる科学的な地理学の源流は19世紀初頭のドイツでおこり、アレキサンダー・フォン・フンボルトとカール・リッターの二人の名に代表され、彼らは「近代地理学の父」と称えられている。彼らは地誌的な記述ばかりではなく、様々な地理的な現象に内的連関を認め、地理学においてその解明の重要性を説いた。19世紀後半には、地理学者らによって各種系統地理学が整備され、日本など世界各国に地理学が移入された。1950年以降、アメリカ合衆国が中心になってコンピューターや統計データなどを用いて、計量的な地理学が世界中に急速に普及したが、現在ではこの様な研究は少なくなってきている。さらに、現在では環境問題や他の近接学問分野の細分化・多様化なども相まって、地理学という範囲にとらわれず様々な分野への関心が要求される一方、専門性の低さが問題ともなっている。
[編集] 地理学の諸分野
[編集] 地理学史
地理学史は、古代に地理学が発生して以来の地理学発達の歴史、学問上の論争、地理学者と呼ばれる人物の研究、地理学方法論の検討などが該当する。地理学という学問のそのものへアプローチする分野。地理学思想、地理学説史なども含む。
[編集] 系統地理学
本節では地理学のうち系統地理学(自然地理学・人文地理学)の諸分野について述べる。地理学が論じられる際は、ほとんどがこの系統地理学の諸分野となる。
これらの分野の区分法は時代・諸外国の事情や大学の方針などにより異なり、流動的であることも留意されたい。
[編集] 自然地理学
自然地理学 に該当するもの。詳細は、各項目を参照されたい。ほとんどの場合、これらの学問成果をあげるには、現地調査(フィールドワーク)が要求される。いずれの場合も、学問上で厳格な線引きは存在せず、例えば気候地形学のような自然地理学の中でも分野のまたがった研究も往々にされている。
- 気候学
- 主に気候と人々との関係を考察する。都市気候、ヒートアイランド現象、エルニーニョ現象などもこの分野で扱う。
- 水文学
- 湖沼や河川、地下水を主な研究対象とする。現在では、陸水学という表現が主流になりつつある。
- 地形学
- あらゆる地形の成因、変遷などを考察。対象は火山、平野、地層など。
- 第四紀学
- 主に第四紀の間に起きた地層、地形の変遷、氷期/間氷期(氷河期)の問題などを取り扱う。現在見られる地形の直接的な要因を探究する。地形学と連携を密にする。
- 海洋地理学
- 海に関係する地理学。自然では海岸線、海流、海底地形など。また人文では、海洋資源や境界線なども扱い、しばしば政治問題にも触れる。
- 植生地理学
- 植生分布に関する地理学。フィールドワークによる場合と、花粉分析法を用い、泥層などから採取した花粉の年代測定をし、解明していく方法がある。
- 動物地理学
- 動物の生態・分布に関する地理学。生態学と密にしている場合が多い。植生地理学などと共にしばしば生物地理学と総称されることも。
- 土壌地理学
- 土壌に関する地理学。第四紀学などと連携を密にすることが多い。
[編集] 人文地理学
人文地理学に該当するもの。詳細は、各項目を参照されたい。これらもほとんどの場合、学問成果をあげるには、現地調査(フィールドワーク)が要求される。いずれの場合も、学問上で完全に独立しているわけではなく、例えば都市地理学と経済地理学の複合分野を研究対象にするということも可能であるばかりか、むしろそのようなケースのほうが多いのである。
- 経済地理学
- 経済活動の空間的異質性を説明する地理学。各種産業に注目した産業地理学(農業を扱う農業地理学、工業を扱う工業地理学、商業を扱う商業地理学などがある。)消費者行動に注目した消費地理学、産業等の立地展開に注目した経済立地論などが主要なテーマ。これらは、人文地理学の中でも議論されることが多い分野である。そのほかの分野として、近年、英米の地理学者を中心に、小売業の立地的側面、金融的側面、消費者行動的側面など小売業を多面的に扱った新しい小売地理学や、経済活動の文化的側面に注目する傾向、そして、グローバルな経済活動がもたらすさまざまの問題を帝国主義や世界覇権とのかかわりで論ずる批判地理学が現れている。だが日本ではこの分野の研究者は少なく、発展途上の段階にある。
- 社会地理学
- 社会階層や社会構造など社会学に関するテーマに対する地理学。具体的には、民族問題や過疎・過密、女性問題やコミュニティの問題などを扱う。
- 政治地理学
- 政治に関する地理学。過去には、軍事侵略や植民地に関するテーマを扱っていた。現在は、学区域の問題や国政や地方行政や国際関係と地理との関係を主流にする。最近では、地理学で政治を扱うと、学問の性質上、地方自治にスポットがあてられることが多いので、この分野を敢えて行政地理学という表現をすることもあったが、近年では、グローバルな政治の問題も、新しい地政学などとしてしばしば取り上げられる。
- 都市地理学
- 都市特有の現象を扱う地理学。交通網・移動、犯罪・非行や、都心・郊外に関するテーマなどを扱う。経済地理学・社会地理学と連携を密にすることが多い。また、都市計画学、都市工学、都市社会学などの分野ともしばしば連携される。
- 歴史地理学
- 地理学では、通常時間軸は現在であるが、歴史地理学は過去である。歴史的な現象・事柄の文献学的な意義のみならず、地理学的な意義を求める分野である。歴史学の一分野としても扱われるが、通常は地理学の分野である。民俗学と連携をとることも。
- 文化地理学
- 文化や風俗を扱った地理学。宗教施設や、祭りなどを考察対象とする。民俗学・文化人類学・社会学などとの連携をとることもある。
- 宗教地理学
- 宗教に関する地理学。地理学では、多くは宗教の教義や思想的なアプローチは行わず、宗教の社会的・文化的役割とその関係を見ることがほとんどである。上記、文化地理学の一分野でもある。
- 人口地理学
- 人口問題・人口移動・人口政策などを扱った地理学。単独ではなく、社会地理学や経済地理学の一分野にされることもある。
- 集落地理学
- 人間の居住形態である集落というものに対する地理学。大きな括りをすれば、農村地理学や都市地理学もこの一分野である。
- 農村地理学
- 農村に関する地理学。集落地理学や農業地理学との連携が大きい。
- 交通地理学
- 交通に関する地理学。交通網の発達と立地展開の関係、日々の人々の移動に関する研究などを扱う。計量的に分析することが多く、鉄道網や道路網に対する知識や関心はその前提と見なされている。都市地理学や経済地理学などとの連関が多い。
- 病理地理学
- 伝染病・風土病などの疾病の地理的な分布・伝播を扱った地理学。医学の専門的な知識を求められるため、地理学の一部門でありながら、人文地理学で論じられることは稀である
- 言語地理学
- 言語や方言に関する地理学。方言の分布など探る。たたし、社会言語学的な性質が強く、人文地理学の一分野と見る論者は少なく、また議論になることも稀である。
[編集] 地誌学
地誌学(地域地理学)は、ある特定された地域内における地理学的事象を自然地理・人文地理両方の見地から研究する学問である。自然地理・人文地理に関わらず、実際に研究する際は、具体的な地域を選定しなくてはならないため、ひとつの専門分野というよりは地理学の共通基礎部分と認識されている。文学や国際関係学方面の地域研究(学)との共通点もある。
[編集] 地図学
地図学は、様々な地図の描写・測量・判読の方法について研究する学問。多くは、作図や実習などの作業を伴う。空間科学である地理学とは不可分な関係にあり、地理学を修得する際は必須科目にされていることが多い。実際的に、地図学において地図を使う場合、地図帳などではなく、国土地理院発行の地形図を用いることが多い。また、日本では学問分野としての確立は見られないが、各地の地名の由来・意味などを研究する地名学もこの分野の派生分野として置かれることもある。
[編集] 日本の地理教育の問題点
書店や図書館へ行けば分かるように、地理教育の本や教科書は少なく、観光の本や特定地域の著者の個人的な思い入れの本が目立つ。これは、日本の初等・中等教育において、地理学が産業地理や地誌に大きな比重を置いていること、一般においても観光と地理との分別があまり行われていないことによる。このため、「地理学は他分野の2次資料の寄せ集めで、理論・体系や記載内容の客観的基準も存在していない」との誤解も多い。大学などの高等教育機関での地理学の授業は、通常は理論的な部分が大半を占めている。(それが地理学固有の理論ではなく、近接分野にも通じている理論体系である事も多いため、前述のような誤解が生じやすいといえる。) なお入試の際に必要とされる、暗記的な地誌事項を殊更に必要とされる事はなく、地理で受験しなかった学生にハンデになる事は少ない。従って、大学で地理以外が専門の学生でも初回から抵抗なく習得できる事が多い。(これは歴史学の授業でも同じことが言える。)従って初等・中等教育における地理と大学の地理学の専門課程との格差を感じる者も少なくない。
現在の日本の高校においては、世界史の必修の影響もあり、地理を履修する学生が減少し、それにより地理で受験できる大学も減少している(参考 「地理のみで受験できる大学」)。
しかし、これらの事は、地理学に対するニーズが低下しているということではない。地誌のような知識の部分と、大学で学ぶ専門的な理論の部分をしっかりと修得すれば、実社会においても十分に評価される学問分野といえる。大学サイドも、環境問題やコンピューターを使った講義を取り入れるなど、近年になって実社会との兼ね合いを重視するカリキュラムが組むようになってきており、かつての地理学のカリキュラムとは、様相を異にしてきた事も事実である。