予防拘禁
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予防拘禁(よぼうこうきん)、または予防拘禁制とは、保安処分の一種。常習犯などを治安上の理由で刑期満了後も自由を束縛し、拘禁する制度。政権にとって危険人物とされた者を、刑法などに規定された犯罪によらず拘禁するためにも使われる。行政拘禁(ぎょうせいこうきん)とも。
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[編集] 概説
基本的には懲役などの自由刑を受けた犯罪者に対し、刑期満了後も再犯の危険などを理由に引き続き拘禁し、自由を束縛する制度である。つまり、新たに刑を科すことはできないが、釈放するには危険性があるとの判断で、引き続き拘禁するための制度である。また、既に釈放された者の拘禁や、犯罪者でないにもかかわらず、思想犯やテロ対策などの名目で拘禁できる制度も含む。
[編集] 日本での事例
日本で予防拘禁とは、一般的に治安維持法に規定されたものを指す。1941年の法改正で導入された。治安維持法違反で刑期を満了した者のみならず、執行猶予判決を受けた者、刑期満了で既に出所した者、思想犯保護観察に付されている者、「罪ヲ犯スノ虞アルコト顕著ナル」と裁判所に認められた者も対象となった。
拘禁は2年間とされたが、刑罰では無いため、裁判を経ることなく期間は更新された。その結果、多くの思想犯は事実上の終身刑となっていた。1945年10月5日、治安維持法と共に予防拘禁は廃止され、10月10日収容者は釈放された。
2003年、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行ったものの医療及び観察等に関する法律が成立した。心神喪失などの精神障害者で、罪に問えない者を強制的に入院させる制度である。しかし、医師だけでなく裁判官が決定に関与すること、期限が無期限であること、精神障害者をことさらに危険視していることなどを理由に、新たな予防拘禁制との批判も強い。
[編集] 外国での事例
[編集] イギリス
予防拘禁を初めて導入したのは、イギリスである。(スタブ)
[編集] アメリカ
アメリカ合衆国では、アメリカ同時多発テロ事件直後の2001年10月、愛国者法によって外国人に限り、テロ対策の名目で7日間の予防拘禁を可能にした。
[編集] 韓国
大韓民国は日本からの独立後、治安維持法を継承する内容の社会安全法を設けた。その中に保護監護処分を設け、治安維持法の予防拘禁規定をほぼ継承した。現在は2年間で、拘束期間の更新はなくなっている。
[編集] ネパール
ネパールでは、破壊活動防止令により、司法によらない、郡知事による1年間の予防拘禁を認めている。2004年10月3日、90日より延長された。
[編集] バングラデシュ
バングラデシュでは、1974年2月9日、政治的反対者を弾圧するSpecial Powers Act(「特別権限法」)の一環として規定。拘禁事由は通常15日以内に呈示。ただし継続拘禁の場合は170日以内。予防拘禁は、6ヶ月毎に更新を審査される。
[編集] インド
インドでは、「治安、国防等を害する行為」に対し、州政府の承認無しで最大12日、事後承認があれば最大12ヶ月間の予防拘禁が可能である。拘禁事由は15日以内に呈示。また、一部の紛争地域では24ヶ月まで。ただし更新はない。
[編集] パキスタン
パキスタンでは、「パキスタン国家の安全」にかかわるものに対し予防拘禁が可能。拘禁事由は15日以内に呈示。通常は3ヶ月を限度とし、更新は6ヶ月毎の審査を要する。
[編集] スリランカ
スリランカでは、「テロ行為および個人、集団、団体、組織等による非合法活動」予防を目的とした拘禁が認められている。期間は3ヶ月で、更新は最大18ヶ月。この他、非常事態令に基づく拘禁もあり、1ヶ月毎の更新を要するが、期間は無期限。
[編集] イスラエル
「行政拘束」と呼ばれる。イスラエルは建国以来非常事態宣言が出たままになっており、そのため可能であるとされる。犯罪の有無は問題とされず、テロ対策の名目で、主にパレスチナ人を拘禁している。2005年現在、収監されているパレスチナ人約8043人中、722人が行政拘禁の適用者である。パレスチナ人以外への適用は稀だが、政治犯・思想犯(無罪判決を受けた者、罪状に問われていない者もいるが)などに適用例がある。また、拘禁理由も開示されない。さらに、証拠の開示を拒否することもできる。拘禁期間は6ヶ月で、無期限延期が可能。
2006年にはさらに、従来の軍令378(1970年4月20日 -)により発動できる弁護士接見禁止令に加え、30日間は弁護士の接見を禁止し、さらに拘禁延長を審議する法廷審問に本人が出廷する権利を拒否できるよう法改正が審議された。その結果、6月28日、弁護士の接見禁止は見送られたが、出廷拒否の他、法廷での罪状開示前に、国内治安機関による尋問を48時間から96時間に延長するなどの案がクネセトで可決した。