H-IIBロケット
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H-IIBロケット(エイチツービー - 、えいちにびー - )は、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)が開発している人工衛星打ち上げ用ロケットである。H-IIAロケットの能力増強型として開発が進められており、成功すれば日本で最大の能力を持つロケットとなる。試験機1号機は2008年(平成20年)打上げ予定。
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[編集] 概要
日本は1997年(平成9)から国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給を行なう宇宙ステーション補給機(HTV、H-II Transfer Vehicle)の計画を進めてきた。HTVの質量は、当初15トンと設定され、H-IIAロケット標準型では打ち上げることはできず、1996年(平成8)からH-IIAロケット増強型の開発が進められていた。
H-IIA 増強型(H2A212)は、その第1段とほぼ同じ機体にLE-7Aを2基装備した液体ロケットブースタ(LRB)を1基追加する計画であったが、1999年(平成11)のH-IIロケット8号機の失敗を受けて、H-IIA開発を標準型に特化するため、増強型は一部の構造系及び電気系の開発を完了した時点で開発が凍結された。
増強型の見直しは、2002年(平成14)から行われ、HTVの質量が当初予定よりも若干増加していること、世界の輸送系のコストが低下してきていることを踏まえて、増強型の以下のような要因を改善する検討が官民共同で実施された。
- 諸外国でも数例しかない非対称なロケットとなり、その制御に若干の困難が予想される。
- 当時台頭が予想された外国の新型ロケットは、複数衛星打上げにより衛星1機あたりの打上げコストを大幅に低減する方向であり、H-IIAロケット民営化後の重要な課題となり得たこと。
- H-IIロケット8号機打ち上げ失敗の原因となった LE-7 を改良した LE-7A を3基も使用することで、その信頼性確保に難点がある。
このため、代替として、標準型の要素を流用しつつも、以下のような新設計の第1段を製作する新たな能力向上案が計画された。
- H-IIA の1段目の機体構造を直径4mから5.2mに拡張して主エンジン LE-7A を2基装備する。
- 固体燃料ロケットブースター(SRB-A改良型)を4本装着する
これが H-IIBロケットで、予定打ち上げ能力はHTV軌道(HTVが自力でISSへのランデブー飛行に移る前に、ロケットにより投入される低高度の楕円軌道)へ16,500 kg、静止トランスファ軌道 (GTO) へ最大8,000 kgである。
[編集] 構成と諸元
各段 | 第1段 | 固体ロケットブースタ | 第2段 | 衛星フェアリング |
---|---|---|---|---|
全長 | 38.2m | 15.2m | 10.7m | 15.0m (5S-H) 16.0m (4/4D-LC) |
外径 | 5.2m | 2.5m | 4.0m | 5.1m (5S-H) 4.0 (4/4D-LC) |
各段質量 | 202t (段間部含む) |
308t (4本分) |
20t | 3.2t (アダプタ、分離部含む) |
エンジン | LE-7A | SRB-A改良型 | LE-5B | - |
推進薬重量 | 175.8t | 262.2t (4本分) |
16.6t | - |
推進薬種類 | LOX/LH2 | HTPBコンポジット | LOX/LH2 | - |
真空中推力 | 2,196kN (エンジン2基) |
9,140kN (最大,4本分) |
137kN | - |
真空中比推力 | 440.0sec | 281.1sec | 447.0sec | - |
燃焼時間 | 345sec | 120sec | 530sec | - |
- 第1段機体
- LE-7A(再生冷却長ノズル)型ロケットエンジン(推進剤:液体酸素と液体水素)を2基搭載。H-IIAからタンク直径を4mから5.2mに拡大、全長を1m伸長することにより推進薬量を増大させている。また、ロケットタンクの溶接には、MHI名古屋航空宇宙システム製作所で開発中のFSW(摩擦攪拌接合)が導入される予定であり、タンクドームには、MHI広島製作所にて開発中の大型スピン成型ドームが採用される予定である。
- 第2段機体
- LE-5B型ロケットエンジン(推進剤:液体酸素と液体水素)を1基搭載。H-IIAロケットの第2段と同じである。
- 固体ロケットブースタ(SRB-A改良型)
- SRB-A改良型を4本装着する。H2A204と同じく、最大動圧を低減するために推力パターンが変更されている。
- 衛星フェアリング
- HTVミッションには、HTV用フェアリング(5S-H型)を用いる。GTOミッションには、4/4D-LC型フェアリングによる衛星 2 機同時打上げを想定し、ロケット全体の設計を実施している。
- 射点設備
- 移動発射台(ML)は、旧増強型対応で設計されコア位置の変更等が容易な第3移動発射台(ML3)を改修して用い、射点は種子島宇宙センター吉信第2射点(LP2)を使用する。VABは、H2A204にも対応可能な第1整備組立棟(VAB1)を避け、第2整備組立棟(VAB2)を改修して用いる。
[編集] 開発コスト
H-IIBロケットの開発経費は約200億円であり、その内約50億円をMHIが分担する。試験機は1機を前提として約118億円であり、合計約318億円のプロジェクトである。
ただし、MHIは自社投資の費用50億の内、専用設備・治工具は、運用開始からの5機に割り掛けて回収することを前提にし、また①検討費用は詳細設計の費用、③汎用設備は、結局人件費として別途資金回収されるため、費用負担の点では、官プロジェクトの色彩が強い。
[編集] 履歴
- 1999年(平成11) - 宇宙開発委員会にて平成14年度の飛行実証を目標に平成12年度からの増強型試験機の開発着手が妥当とされた。
- 2001年(平成13) - 宇宙開発委員会にて打ち上げ目標年度の平成17年度への変更を妥当とされた。
- 2002年(平成14)6月 - 宇宙開発委員会にてH-IIA標準型以上の能力を持つ輸送系(H-IIA増強型)を開発する場合には、H-IIA標準型を基本に民間に主体性を持たせた官民共同開発を行い、官民の関係者からなる作業チームを文部科学省に設置し検討を行うと決定され(H-IIA民営化作業チーム)、同作業チームにおいて、H-IIA輸送能力向上に際しての開発の進め方について検討が開始された。
- 2003年(平成15)4月 - 上記作業チームの検討がとりまとめられ、輸送能力向上形態のあり方、官民役割分担の考え方、民間を主体とした開発の進め方等についての考え方が示された。
- 2003年(平成15)8月 - 宇宙開発委員会にてプロジェクトの見直し内容と根拠についての妥当性に関する評価が行われ、平成19年度に試験機を打ち上げることを目標に開発を進めることは適切であると判断された。
- 2005年(平成17)7月 - 開発移行前審査を行い、基本設計フェーズに移行可能な状態であることを確認された。
- 2005年(平成17)9月21日 - 民間を主体とした官民共同開発の枠組みに関して、JAXAとMHIの間で基本協定を締結した。JAXAが基本設計や各種試験、打ち上げを担当し、詳細設計から製造までをMHIが担当する。
[編集] 予定
- 2005年(平成17)- 基本設計、詳細設計、開発基礎試験等を実施
- 2006年(平成18)- 17年度作業を継続し、システム設計および開発試験等を実施
- 2009年(平成21)夏期 - H-IIB試験機によるHTV実証機の打上げ
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- JAXAトップページ
- 平成14年 第18回宇宙開発委員会 資料
- 平成14年 第18回宇宙開発委員会 議事録
- 我が国の宇宙開発利用の目標と方向性
- H-IIAロケット輸送能力向上に係る評価結果
- 18年度予算概算要求に向けたJAXAの研究開発プロジェクトの概要(PDF)
- JAXAにおける信頼性確保に向けた取り組みの実施状況について(PDF)
- JAXA's 005号(PDF)
- MHI Technical Review Vol.42 No.5(PDF)
- MHI名航>Monthly Headline>◆HIIBロケットタンク溶接工場地鎮祭執り行われる
- MHI>MHIニュース>◆H-IIBロケットタンクドームを一体成形で生産 高信頼化、低コスト化を達成して競争力強化に貢献
- 第50回宇宙科学技術連合講演会 1B10 H-IIBロケットの開発状況
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