8ミリビデオ
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8ミリビデオは、家庭用ビデオの規格である。 ビデオカメラ用として広く普及した。
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[編集] 概説
家電業界を二分したVHSとベータの激しい規格争い (いわゆる「ビデオ戦争」) により、規格乱立のデメリットを痛感したメーカー各社により「8ミリビデオ懇話会」が設けられ、次世代のビデオ規格として検討が行われた結果、ビデオにおける初の世界127社による統一規格として誕生した。
テープ幅が8ミリであり、規格名はそこから取られている。 ビデオカセットはコンパクトカセットとほぼ同じ大きさで、VHSやベータと比較して大幅に小型化されている。 テープはメタルテープ(塗布型または蒸着型)を採用し、高密度記録により、当初より標準モードで120分の長時間記録が可能であった(後に180分テープも発売)。
なお、単に「8ミリ」と呼ばれることもあるが、世代や文脈によって「8ミリビデオ」と「8ミリフィルム」のどちらを指すかが分かれ、混乱が生じることもあった。現在ではminiDVへの世代交代によって「8ミリ」という略称自体がほとんど聞かれなくなっている。
8ミリビデオをハイバンド化した上位互換の高画質フォーマットとしてHi8、テープ速度を2倍にしてデジタル記録(DV互換)を実現したDigital8がある。
[編集] フォーマット概要
- 記録方式:ヘリカルスキャン方式
- 記録ヘッド数:2
- ヘッドドラム径:約40mm
- ヘッドドラム回転数:約30Hz (約1800rpm)
- テープ幅:8mm
- テープ送り速度:約14.5mm
- 記録トラック幅:約20μm (SP)
- 信号方式:
- 映像
- 映像信号:周波数変調 (FM)
- 8mm:シンクチップ:4.2MHz/白ピーク:5.4MHz
- Hi8:シンクチップ:5.7MHz/白ピーク:7.7MHz
- 映像信号:周波数変調 (FM)
- 音声
- 音声信号1:2チャンネルAFM記録
- 映像信号に重畳。発売当初はモノラルだったが、のちにステレオ化された。ステレオ化に際しては、従来のモノラル機と互換性を取るため、従来のAFM信号(L+R、1.5MHz)の上位周波数(1.7MHz)にL-Rの信号を加えたものになっている。
- 音声信号2(オプショナル):2チャンネルPCMデジタル記録(ビデオトラック端部に時間軸圧縮記録)、サンプリング周波数32kHz、量子化数12ビット
- AFMがステレオ化したことにより、民生用のビデオカメラではほとんど使用されていない。DAT並みの音声とした16ビット規格も発表されたが、結局対応製品は発売されなかった。
- AFMステレオで必要十分だったため、音声用固定ヘッドは民生用では使用されていない。
- 音声信号1:2チャンネルAFM記録
- 映像
- 固定消去ヘッドは使用されておらず、すべての機種でFEヘッド(フライングイレースヘッド)である。これは、カムコーダでの使用が前提であったことから、つなぎ撮りがきれいに行なえるFEヘッドの採用が必須とされたためである。
[編集] 製品概要
1985年1月8日、ソニーが8ミリビデオの第1号機「CCD-V8」を発表した[1]。 他には8ミリフィルムの後継規格を模索していた富士写真フイルム(当時[1])やキヤノンなどのカメラメーカーが新たに参入したが、日本ビクターや松下電器産業を中心とするVHS陣営はVHSフルカセットとの互換性を持つVHS-Cを前面に押し出し、両者による激しい規格競争に突入することとなる。しかし、一方で松下は欧州向けに8ミリのビデオカメラを生産していた。 この競争の結果、ビデオカメラの小型軽量化が急激に進み、本体形状は現在みられる片手支持スタイルを確立した。
従来、家庭用ビデオカメラの主用途は子どもの成長記録であったが、1989年にソニーから発売された「パスポートサイズ・ハンディカム」CCD-TR55 は、その劇的に小型な本体サイズもさることながら、旅行に持ち出すというコンセプトが子供を持たない若者を中心に受け入れられ、一時は生産が追いつかなくなるほどの爆発的ヒットとなり、撮影対象が広がったことを示した(ハンディカムの項も参照)。 小型化が容易で長時間録画をサポートしていたことなど、元々VHS-Cとの比較では8ミリが有利な点が多かったが、この TR55 の発売以降、市場は8ミリに大きく傾くこととなった。そして1992年にVHS-Cから転向したシャープが液晶モニター一体型の「液晶ビューカム」を発売し、これが大人気商品となったことで、8ミリビデオの優勢が決定的となった。
[編集] 現在の状況
1995年9月に、より小型で鮮明なデジタル録画ができる「DV規格」を採用したデジタルビデオカメラの第1号機「NV-DJ1」が松下電器産業から発売され、それ以降、VHS-Cと同様に、8ミリビデオについても、DV規格との世代交代が始まった。初期の頃にはMiniDVテープの入手が困難であったが、テープの生産体制が軌道に乗るに連れて8ミリビデオカメラは急速に売れ行きを落とした。
ほとんどの8ミリビデオカメラは単独で再生機能を備え、本体前面にビデオ入力端子を備えたテレビが普及した事からも、VHSビデオデッキと非互換であることはあまり問題ではないが、子どもの成長記録など個人的な映像が保存されていることも多く、機器の老朽化も進んでいることから、再生環境の維持が課題となりつつある。これに応えるため、2006年現在においてもHi8方式のビデオカメラの開発・生産が続けられており(多くの場合は取り寄せとなるが、カタログに掲載され、改良新製品も定期的に投入されている)、8ミリビデオテープを再生することは可能(音声は、録画・再生共にモノラルで、映像出力はコンポジットのみ)。また携帯型再生機のビデオウォークマンもDigital8用の製品の生産が続けられている。
[編集] 注釈
- ↑ 2006年10月1日に行なわれた持株会社制への移行に伴い、旧富士写真フイルムの事業は現富士フイルムに引き継がれたが、富士写真フイルムはこの分社化よりも以前に8ミリビデオ分野から撤退しており、継続していた8ミリビデオテープの製造・販売も分社化前日の9月末日をもって打ちきっている。