飛び降り
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飛び降り(とびおり)は、人間がとる行動のひとつ。広義には「高いところから低いところへ飛び移る」行動全般を指すが、その中でも高所から落下することを利用した自殺の方法のことに限定して「飛び降り」と呼ぶ場合が多い。本稿では、この「飛び降り自殺」に関連する事項について述べる。
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[編集] 方法・概要
ビルやマンションといった高層建造物からの飛び降りが代表的な方法であり、他にも断崖の上や歩道橋の上、果ては飛んでいる飛行機の上まで、高いところ全般が対象となる。特に道具などの準備は必要とされず、また落下途中に気を失うこともあるため苦痛が少ないことや、十分な高さを取れば失敗する確率も割合低いということもあり、自殺の代表的な方法のひとつとして用いられる。こういった飛び降りの対象となる場所の中には、特定箇所で飛び降り自殺が相次ぎ、「自殺の名所」として著名となった場所もある(栃木県日光市の華厳滝、アメリカ・サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジなど)。
飛び降りを行なう位置が高くなればなる程、運動エネルギーによって地面に叩きつけられる際の衝撃が増し、身体各所の脱臼・骨折および破損・破裂が見られる。特にアスファルトや岩場など堅い地面に向かって飛び降りた場合には、生前の元の姿を全く留めないほどの非常に惨たらしい死体となって発見される場合が多く、「最も見苦しい死に方」のひとつである。
また落下するその瞬間には、過去の記憶が「走馬燈のように」フラッシュバックされる、とも言われる。
落下途中で木や茂みなどの障害物に引っ掛かって衝撃が和らいだり、落下しても足から落ちるなどした場合、致命傷に至らない場合がある。しかし何かしらの大きな傷を負うことは必至であり、五体満足で生還する可能性はほとんどないと言って良い。
着地点が地面の場合45メートル以上(ビルの12階相当)、水面の場合75メートル以上からの落下であれば確実に死に至る(生還例がない)とされる。しかし一方で、実際に飛び降りを図った者の大半はこれよりもかなり低いところから飛び降りているという統計もあり、自殺を志願しながらも本能的に一応の「躊躇」をしていることが窺える。
また、ビルやマンションなどの飛び降り自殺の場合、下に偶然歩いている歩行者などに直撃した例があり最悪の場合には、死ぬつもりで飛び降りた人が生き残り、直撃を受けたまったく無関係の人が亡くなるといった非常に理不尽な事例もある。飛び降り自殺に巻き込まれ死亡した遺族が自殺をした遺族に賠償請求訴訟を起こし、高額の賠償金を支払うことになったケースも存在する。
厚生労働省のデータ(外部リンク参照)によれば、自殺者が選ぶ自殺の手段における飛び降り自殺の割合は、男性で全体の7.1%で第3位、女性で全体の12.8%で第2位(2003年度)となっている。また地域別の自殺手段における飛び降り自殺の割合を見ると、高い建造物の多い都市部で圧倒的に高い。
また、飛び降り自殺の場合、ドラマなどでは靴を脱いで飛び降りるシーンがよくあるが、なぜ靴を脱ぐのか、また、実際そうやって飛び降りるものなのかどうかは不明。
いずれにせよ、無関係の人にとりかえしのつかない大ケガを負わせることもあり、現場検証をしたり遺体処理をする人も大変であり、飛び降りは非常に迷惑極まりないことに疑いの余地はない。
[編集] 様々な「飛び降り」
[編集] 「飛び降り」を楽しむ
高所からの飛び降りを安全に体験する方法がいくつかあり、飛び降りによるスリルを楽しむ方法としてはバンジージャンプが代表的である。また飛び降りることをスポーツとしたものとしては、スカイダイビングや水泳競技の一種である飛込競技が挙げられる。さらに、崖や高層ビルからパラシュートを背負って飛び降りる「クリフダイビング(cliff diving)」と呼ばれるものもある。ちなみに無断で都市部のビルからクリフダイビングを行なうと警察に捕まる可能性が高く、様々な意味で危険な行為である。
[編集] 清水の舞台から「飛び降り」る
京都府京都市東山区清水の清水寺にまつわる有名な慣用句であるが、その由来は江戸時代に庶民に広まった民間信仰にある。これは、同寺に祀られる観音様に自らの命を預けて「清水の舞台から飛び降り」、もし助かれば願い事が叶い、またたとえ死んだとしても成仏し観音様の元へ行ける、というもの。
清水寺が独自に行なった調査では、清水寺塔頭の成就院が記録した文書「成就院日記」の中に、1694年(元禄7年)から幕末の1864年(元治元年)までの間に取られた148年分の記録中、未遂も含め234件の「飛び降り」の記録が残っているという。これには件数だけでなく生死の状況など詳細な統計も残っており、そこから「生存率」を計算したところ85.4%というかなり高い数字となった(ちなみに舞台から地面までは13メートルの高さ)。下は12才から上は80代まで老若男女が飛び降りを図っており、彼等は東北地方から四国までの全国から「飛び降り」にやって来ていたようである。相次ぐ飛び降りを近隣住民は快く思うはずもなく、対策を同院に嘆願していたという記録も残っており、1872年(明治5年)に政府による飛び降り禁止令によってようやく収束している。
現代においては、1995年2月に阪神・淡路大震災で被災した80代の男性が、そして2006年5月15日には30~40代と見られる男性がそれぞれ清水の舞台から飛び降り、いずれも死亡している。
[編集] 火事場からの「飛び降り」
高層建造物等における火災の際に、建物の中にいた人が高階から飛び降りるという現象が見られる。この場合の飛び降りは死を望んでの自殺行動ではなく、炎や煙、内装の倒壊などで逃げ場を失ったことに伴って、死にたくない一心から「最終手段」として取った行動と考えられ、非常時の行動心理としては十分に理解しうるものである。
このような行動を「取らされる」要因としては、火災の熱によって建物周辺の大気が熱せられたことにより、逃げようとした人が窓から下を覗いたときに地面が比較的近くに見え、「飛び降りても大丈夫かもしれない」と錯覚してしまう(言わば地面の蜃気楼を見ている)ことが考えられている。
日本の戦後史上最悪の建造物火災として知られる、1972年5月13日に大阪府大阪市南区(現在の中央区)千日前で起きた千日デパート火災(7階建てで3階から出火)では、犠牲者118名中、飛び降りによる死者が22名。また1982年2月8日に東京都千代田区で起きたホテルニュージャパン火災(火災が起きたのは建物の9、10階)の際には、犠牲者33名中、飛び降りによる死者が13名と実に3分の1以上に上っている。
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの際は、飛行機の突入による世界貿易センタービルの火災で、燃焼部分より上にいた人の中に、飛び降りを行った人が多数いた。消防士や救急隊員、避難者の一部が、落ちてきた人に直撃されて命を落とした者は少なくはない。
[編集] 動物の「飛び降り」
動物がとる異常行動のひとつとして飛び降りをすることがある。有名なところではレミング(タビネズミ)の集団自殺があり、その他の動物に関しても世界中で多くの報告例がある。近いところでは2005年7月に、トルコのとある地区で放牧をしていた羊1,500頭あまりが次々と崖から身を投げ450頭以上が死ぬ、という事件が発生している。この異常な行動に対しては諸説あり未だ解明に至っていないが、自殺ではなく単なる集団移動の結果に生じる「集団事故死」とする見方が有力である。
[編集] 飛び降りにより自ら命を絶った著名人
- 藤村操(学生、華厳滝から飛び降りたことで有名)
- 佐藤次郎(戦前期のテニスプレイヤー)
- シャーンドル・コチシュ(ハンガリーのサッカー選手)
- 沖雅也(俳優)
- 岡田有希子(アイドル歌手)
- 山田花子(漫画家)
- 長谷有洋(俳優・声優)
- 可愛かずみ(女優)
- 伊丹十三(映画監督)
- レスリー・チャン(香港の俳優)
- ポール牧(コメディアン)
- 見沢知廉(作家)
- 犬丸りん(漫画家、エッセイスト)
- 高田真理(ギタリスト、青い三角定規メンバー)