脊髄小脳変性症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
脊髄小脳変性症(英:Spinocerebellar Degeneration (SCD))とは、運動失調を主な症状とする神経疾患の総称である。小脳および脳幹から脊髄にかけての神経細胞が破壊、消失していく病気であり、1976年10月1日以降、特定疾患に16番目の疾患として認定されている。
医療情報に関する注意:ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。 |
目次 |
[編集] 概要
推定では、10万人に4~5人の確率で発症するといわれている。
人種、性別、職業による発病の差はない。
ただし、孤発性(非遺伝性):遺伝性の比率は6:4であるといわれており、遺伝性疾患の大部分は常染色体の優性遺伝が原因と言われている。
主に中年以降に発症するケースが多いが、若年期に発症することもある。
[編集] 種類
- 孤発性
- 皮質性小脳萎縮症
- 多系統萎縮症
- 遺伝性
- 1.常染色体優性遺伝
- 脊髄小脳失調症1型(SCA1)
- 脊髄小脳失調症2型(SCA2)
- 脊髄小脳失調症3型(SCA3、通称:マシャド・ジョセフ病)
- 脊髄小脳失調症6型(SCA6)
- 脊髄小脳失調症7型(SCA7)
- 脊髄小脳失調症10型(SCA10)
- 脊髄小脳失調症12型(SCA12)
-
- 脊髄小脳失調症は現段階で17型まで発見されている。
-
- 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)
- 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)
- 2.常染色体劣性遺伝
- フリードライヒ失調症(FRDA)
- ビタミンE単独欠乏性失調症(AVED)
- 眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発性小脳失調症(EOAH)
[編集] 症状
- 運動失調の症状(=小脳失調障害)
- 歩行障害:歩行時にふらつく。末期になると歩行困難になる。
- 四肢失調:手足を思い通りに動かせない。箸をうまく使えない。書いた字が乱れる。
- 会話障害:ろれつがまわらなくなる。一言一言が不明瞭になり、声のリズムや大きさも整わなくなる。
- 眼球振動:姿勢を変えたり身体を動かしたりした時、ある方向を見た時、何もしていないのに眼球が細かく揺れる。
- 姿勢反射失調:姿勢がうまく保てなくなり、倒れたり傾いたりする。
-
- 上記は小脳の神経細胞の破壊が原因で起こる症状である。
- 運動失調の症状(=延髄機能障害)
-
- 上記は延髄の神経細胞の破壊が原因で起こる症状である。
-
- 上記は自律神経の神経細胞の破壊が原因で起こる症状である。
- 不随意運動の障害
- ミオクローヌス:非常にすばやい動きをする。
- 舞踏運動:踊っているような動きに見える。
- ジストニア:身体の筋肉が不随意に収縮し続ける結果、筋肉にねじれやゆがみが生じ、思い通りに動かなくなる。
[編集] 療法
- 薬物療法
- TRH(甲状腺ホルモン分泌促進ホルモン):注射。歩行障害や会話障害といった運動失調に効果があるが、改善は一時的なものにすぎない。
- パーキンソン治療薬:振戦や筋固縮の対症療法に使われる。
- 自律神経調整薬:代表的なものとして、起立性低血圧の対症療法にジヒドロエルゴタミンやドプスなどが使われる。
- リハビリ
- 重量負荷:重りの入った靴を履いたり、ふくらはぎに重りをつけて歩くことで運動失調の進行を遅らせる目的がある。
- 弾性包帯:足を弾性包帯で巻くことにより、歩行障害や起立性低血圧を防ぐ目的がある。
[編集] 原因と予後
遺伝性のものは、近年、原因となる遺伝子が次々と発見されており、それぞれの疾患とその特徴もわかりつつある。
常染色体優性遺伝のもので最も多く見られるのは、シトシン・アデニン・グアニンの3つの塩基が繰り返されるCAGリピートの異常伸長であることが判明した。CAGはグルタミンを翻訳・発現させるRNAコードだが、正常な人はこのCAGリピートが30以下なのに対し、この病気の患者は50~100に増加している。CAGリピートの数が多ければ多いほど、若いうちに発症し、症状も重くなることが分かりつつある。この異常伸長により、脳神経細胞がアポトーシスに陥ることが近年の研究で分かりつつある。
弧発性の多系統萎縮症に関しても、オリゴデンドログリアや神経細胞内に異常な封入体が存在することが分かっていたが、その主成分が、パーキンソン病患者の脳細胞に見られるレビー小体の構成成分でもあるαシヌクレインというたんぱく質の一種であることが判明した。現在はその蓄積システムの研究が両疾患の研究スタッフの間で進められている。
だが、具体的な原因が完全にわかるまでには相当な時間がかかることが予想される。また、現段階で根本的な治療法が確立されているのはビタミンE単独欠乏失調症のみであり、他の疾患に関しては薬物療法やリハビリテーションといった対症療法で進行を抑えるしかないのが現状である。
病気の進行は緩慢であるため、10年、20年と長いスパンで予後を見ていく必要があり、障害が進行するにしたがって介護が必要になるケースも出てくる。
[編集] 社会的影響
この病気を患った木藤亜也さんの日記を本にした『1リットルの涙』が2006年現在、210万部の売り上げを誇るロングセラーとなっている。また、同作品は映画化、ドラマ化されている。
[編集] 関連
[編集] リンク
カテゴリ: 神経変性疾患 | 脳神経疾患 | 医学関連のスタブ項目