職務質問
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
職務質問(しょくむしつもん)とは、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を、警察官が停止させて質問する行為。戦前は不審尋問と呼ばれた。
目次 |
概説
警察官は、警察官職務執行法を根拠に不審者を呼び止めて質問を行う権限が与えられている。
実際に職務質問を行う場合の条件については警察官職務執行法に細かく定められていて、「普通の社会人がその場合に臨んだら当然にそう考えたであろう客観性」が必要である。「客観性」が条件とされるため単なる主観だけの職務質問は許されないが、警察官独自の知識、経験その他の自身だけが知りうる情報を併せて合理的な不審点が認められる場合は許される。
あくまでも任意活動であるが、停止を求められた者が内心では迷惑を感じたり、嫌々ながらも仕方ないと思ったりして停止した場合でも任意の範疇となる。警察官の要請に応じずその場を離れようとする者を説得する活動も言語で行うのが通常であるが、説得のため追従し、またその前に立ちふさがるなどの行為もその状況から見て相当と認められる程度で許される。走り去ろうとする者などは一般的に不審度が高いと認められるため、説得のための追跡活動は当然許される。高い不審状況にある場合は、停止させ、質問を行うために一定の実力行使が認められている。但し、認められているのは一時的軽微な程度の実力行使であり、逮捕行為に及ぶような強制的な行為は許されない。不審状況が高い場合について、不審者を停止させ、質問を行うための実力行使については、例えば、「腕に手をかけ引き留める行為(最高裁決定昭29.7.15)」を始めとして「犯罪を行ったとの疑いが濃厚な者を停止させようとして、2度逃げられ、3度目に両肩をつかみ、さらに振り切ろうとしたためジャンパーの両襟首をつかむ行為」などが適法とされている。
職務質問により多くの犯罪を抑止し、摘発に繋がっているのは事実であり、実際に行為を働く警察官には、市民への人権侵害への配慮と、街の治安の維持・向上とのバランス感覚が求められている。もっとも、公共の福祉の観点から、安全な市民生活の維持は国民全体の責任ともいえ、治安維持機関、捜査機関への多少の協力は市民の当然の公益負担とする見解もあり、例えば自動車検問における合理的な限度での協力義務(最高裁昭55.9.22)があるとされる。
対象者
警察官職務執行法によると対象者は「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断」して、以下の条件のどれかを満たした者である。
- 何らかの犯罪を犯した者
- 何らかの犯罪を犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者
- 既に行われた犯罪について知っていると認められる者
- 犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者
警察機関への同行
警察官職務執行法では以下の条件の場合、対象者に附近の警察署、交番又は駐在所への同行を求めることができる。
- その場で職務質問をすることが質問相手に不利になる場合
- 交通の妨げになる場合
任意規定
あくまでも警察官職務執行法に基づく職務質問は任意行為であり、職務質問に応じなかったからと言って直ちに逮捕・処罰されることはない。警察機関への同行もあくまでも任意同行である。現行犯罪人や令状捜査など、刑事訴訟法に基づく強制捜査である場合は別段、職務質問において警察官職務執行法のみを理由として身体の拘束、連行、答弁の強要をされることはない(さもなければ警察が違法逮捕・監禁・強要に問われかねない)。
ただし実際上はある程度の職務質問における被職質者の束縛は判例でも認められており、職権濫用性との問題が常に議論される。
参考文献
- 古谷洋一編『注釈警察官職務執行法』(立花書房)
- 警察庁長官官房企画課監修『警察官職務執行法関係判例集』(東京法令出版)
- 金子仁洋『警察官の職務執行』(令文社)
- 池田修/前田雅英『刑事訴訟法講義』(東京大学出版会)
- 渥美東洋『刑事訴訟法』(有斐閣)