競走馬の賞金クラス体系
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競走馬が競馬に出走するに当たって、強い馬は強い馬同士、弱い馬は弱い馬同士での対戦を組むように、クラス分けを行ったり、競走条件に制限を加える。日本では賞金を基準に行うが、賞金を基準とするのは日本のみである。日本以外の国の競馬ではレーティングなどが用いられる。この項目は競走馬の賞金クラス体系であるが、クラスや競走条件の区分とも繋がりが深いため、これらのことについても論じる。中央競馬と地方競馬ではシステムが異なり、また同じ用語でも違う意味で使われるので、注意されたい。
目次 |
[編集] 中央競馬
中央競馬の競走条件の区分には、収得賞金と呼ばれる値で行われる。収得賞金は原則的に、1着を取ったときの競走の競走条件と本賞金に準じて決まる。収得賞金の計算方法は、2006年夏季開催より大幅なルール変更が行われている為、2006年春季開催(6月中旬頃)以前と2006年夏季開催(6月下旬頃)以降に分けて記載する。
[編集] 2006年夏季開催以降の収得賞金の計算方法
1着をとった競走の競走条件(下記参照)に応じて、以下のように定められている。
競走条件 | 収得賞金額 |
---|---|
新馬 | 400万円 |
未勝利 | 400万円 |
500万円以下 | 500万円 |
1000万円以下 | 600万円 |
1600万円以下 | 900万円 |
オープン | 本賞金の半額 (10万円未満切捨) |
なお1着馬が同着になった場合には、同着になった全ての競走馬に対して上記の収得賞金額を加算する。以前は、1着馬が同着となった場合、本賞金が変更(2頭の場合には1着と2着の本賞金を合算して2で割る)となる為、1着馬が1頭だけだった場合に比べて、加算される収得賞金額が少なかった。
4歳馬が夏季開催を迎えた時点で、その時点での収得賞金が半額となる。 ただし半額になるのは、4歳馬が夏季開催を迎えた時点の1度きりであり、以後に獲得した収得賞金が半額になることはない。
なお、2006年夏季開催においては、新ルールへの移行に伴い、4歳以上の全競走馬に対してその時点での収得賞金を半額にする措置が行われた。
[編集] 2006年春季開催までの収得賞金の計算方法
JRAでは、重賞以外の競走では1着、重賞競走(ダートグレード競走および外国の重賞競走)では1着~2着に入賞して獲得した本賞金をもとに下記の方式で算出した金額(収得賞金)によって、クラス分けを実施している。
施行日 | 1着入着時 | 重賞の2着入着時 | |
---|---|---|---|
1995年(平成7年)1月1日~2000年(平成12年)12月31日 | 1200万円以上は半額 400万円以上1200万円未満は400万円 |
480万円以上は半額 160万円以上480万円未満は160万円 |
|
2001年(平成13年)1月1日以降 | 一般競走 | 1200万円以上は半額 1000万円以上1200万円未満は600万円 |
|
特別競走 | 1500万円以上は半額 1200万円以上1500万円未満は600万円 |
480万円以上は半額 160万円以上480万円未満は160万円 |
(海外競走では一部異なる)
額が一般競走と特別競走で異なるのは、同一クラスの競走は同じ金額となるように調整をしたためである。 (週刊競馬ブック2002年4月7日号を参考にした)
- 未勝利クラス…400万円
- 500万円下クラスの一般競走ないし特別競走…400万円
- 1000万円下クラスの一般競走ないし特別競走…600万円
- 1600万円下クラス、オープンクラス、重賞レース…本賞金の半額
- 障害未勝利…400万円
- 障害オープンの一般競走ないし特別競走、障害重賞…本賞金の半額
※地方および外国の競馬からの移籍馬の場合
- JRAの競走の場合は上記の説明通りに算出する
- 地方および外国の競馬の第1着本賞金が400万円未満の場合は全額、400万円以上1200万円未満の場合は400万円、1200万円以上の場合は半額
- 地方および外国の競馬の第2着本賞金が160万円未満の場合は全額、160万円以上480万円未満の場合は160万円、480万円以上の場合は半額
※JRA所属馬が地方競馬指定交流競走(地方重賞を除く)に出走した場合
- 未勝利クラス所属馬が出走できる競走で勝った場合…400万円
- 500万円下クラス所属馬が出走できる競走で勝った場合…400万円
- 1000万円下クラス所属馬が出走できる競走で勝った場合…600万円
- 1600万円下クラス所属馬が出走できる競走で勝った場合…900万円
- オープンクラス所属馬が出走できる競走で勝った場合…1200万円
[編集] 平地競走の競走条件区分
JRAの平地競走は競走馬の出走歴と収得賞金額によって下記のように競走条件が区分される。
- 新馬…過去に1度も競走に出走がしたことがない競走馬のみが出走できる。
- 未勝利…収得賞金が0円の競走馬のみが出走できる(勝利がなくても収得賞金が加算される場合が例外的に存在する)。
- 500万円以下
- 1000万円以下
- 1600万円以下
- オープン
「~~万円以下」という競走条件は前に述べた収得賞金額で指定された金額以下の馬にしか出走する権利が与えられない。このことから「~~万円以下」の競走を条件戦と呼ぶ。条件戦に出走できる競走馬を条件馬と呼ぶ。一方オープンの競走にしか出走できない競走馬はオープン馬と呼ぶ。また「1600万円以下」の競走は、オープンの一歩手前であることから準オープンと呼ぶ場合がある。
競走馬が2歳になった年の6月下旬(夏季編成初日)から出走できる。2歳~3歳の春季開催(6月中旬頃)までは同じ年齢同士の馬が走るが、3歳の夏季開催(6月下旬頃)以降になると、未勝利馬を除く3歳馬は4歳以上の馬に混じって出走する。実際には開催時期によって下記に記した競走が行われている。
年齢条件 | 競走条件 | 春季開催 | 夏季開催 | 秋季開催 |
---|---|---|---|---|
2歳 | 新馬 | × | ○ | ○ |
未勝利 | × | ○ | ○ | |
500万円以下 | × | △※1 | △※2 | |
オープン | × | ○ | ○ | |
3歳 | 新馬 | △※3 | × | × |
未勝利 | ○ | ○ | △※4 | |
500万円以下 | ○ | × | × | |
1000万円以下 | △※5 | × | × | |
オープン | ○ | △※6 | △※6 | |
3歳以上 | 500万円以下 | × | ○ | ○ |
1000万円以下 | × | ○ | ○ | |
1600万円以下 | × | ○ | ○ | |
オープン | △※7 | ○ | ○ | |
4歳以上 | 500万円以下 | ○ | × | × |
1000万円以下 | ○ | × | × | |
1600万円以下 | ○ | × | × | |
オープン | ○※7 | × | × |
- ※1 夏季の2歳500万円以下は、ホッカイドウ競馬への配慮の為に設けられた札幌開催での数競走のみ。
- ※2 秋季の2歳500万円以下は、9月には設けられておらず、10月以降。
- ※3 3歳新馬戦は3月中旬まで。
- ※4 秋季の3歳未勝利戦は9月まで、ただし10月に、出走馬を制限した未勝利戦(後述)が行われる。
- ※5 3歳1000万以下は、5月から6月中旬に数競走のみ。
- ※6 夏季の3歳オープンはラジオNIKKEI賞のみ。秋季は菊花賞、秋華賞と、そのトライアル競走のみ
- ※7 オープンに限り5月から4歳以上から3歳以上となる。
3歳10月の未勝利戦は一時期廃止されていたが、現在は「出走回数が5回以下」もしくは「前走が中央競馬の平地競走で3着以内」の条件を満たした競走馬が1回だけ出走できる競走が行われている。
500万円以下と1000万円以下の競走には、一般競走と特別競走の2つが施行されている。特別競走は一般競走と比べて賞金が約40%高くなっている。1600万円以下とオープンの競走は現在、特別競走のみが施行されている。
1000万円以下の競走に出走できる競走馬が1600万円以下の競走に出走するなど、現在出走できる最も下の競走区分よりも上の競走に出走する「格上挑戦」も可能である。現在出走できる最も下の競走区分よりも下の競走への「格下挑戦」は認められていない。但し出走を希望する馬が最大出走頭数(フルゲート)を超えた場合は「格上挑戦」馬は除外される。
4歳馬が夏季開催を迎えると、収得賞金額が半額となるため、それまで上位の競走区分にしか出走できなかった4歳馬が1つないし2つ下の競走区分に出走できるようになる。これを降級と呼び、その対象馬を降級馬と呼ぶ。通常、降級馬は能力が高いので、夏季開催においては降級馬の好走事例が多数見受けられる。
[編集] 出走制限
ここでは収得賞金では競走条件に適合しているにも関わらず出走できない場合を挙げる。従って、タイムオーバーや3回9着以下になった場合、疾病などによる出走制限などは論じない。
- 中央4場においての制限
3歳11月以降の収得賞金が0円の競走馬ならびに6歳以上で収得賞金が200万円以下の競走馬は中央4場(東京・中山・京都・阪神)で施行される競走には出走できない。これは代替開催によって中央4場の開催が他の競馬場に振り返られた場合も適用される。逆に、他の競馬場から中央4場に振り返られた場合は適用されない。
- 1600万円以下とオープンの競走においての制限
重賞競走ならびに3歳以降の1600万円以下とオープンの競走区分の競走に出走ができない。ただし、クラシック競走のトライアル競走は出走可能である。
[編集] 障害競走の競走条件区分
障害競走も基本的なシステムは平地競走の場合と同様となっているが、障害競走の場合は平地競走に比べ出走する馬の頭数自体が少ないため、競走条件は「未勝利」と「オープン」の2段階となっている。また新馬戦・未出走戦は存在しないほか、年齢による降級制度もない。
障害競走の収得賞金は障害競走の戦績のみで算出される。また現在は、平地競走の収得賞金は平地競走の戦績のみで算出され、平地と障害の収得賞金は完全に分離されている。2000年以前、平地競走の収得賞金には障害競走の収得賞金が加算されていた。詳しくは歴史の項を参照。
[編集] 歴史
- 障害400万円以下の廃止。
障害競走では、未勝利戦とオープンのほかに400万円以下という競走条件の競走が存在したが、1999年に障害改革において、オープンの出走馬を増やし、活性化を行う目的で400万円以下は廃止された。
- 平地と障害の収得賞金の完全分離。
従前では、平地競走における競走区分において、平地競走で稼いだ収得賞金に障害競走の収得賞金が加算された額が利用されていた(障害競走は障害競走の収得賞金のみで計算され、平地競走で稼いだ収得賞金は加算されない)。そのため、平地競走で未勝利だった障害重賞馬が平地の重賞に出走することが可能だった。障害競走で実績のある馬が、障害オープンで過剰な負担重量を背負わされるのを嫌い、休養明けのレースとして天皇賞(春)やダイヤモンドステークスなど平地の長距離重賞に出走する例がしばしば見られた。(ex. ポレール)2000年より制度が改正され、障害競走と平地競走の収得賞金は完全に分離して扱うこととなったことと、障害競走の番組が整理されて重い斤量を背負わなくても良い競走が増えたため、現在はそのようなことはあまり見られない。
- 未出走戦の廃止
従前は3歳新馬戦終了後に未出走戦が行われていた。未出走戦は出走資格は新馬と同様であるが、賞金は未勝利と同額(新馬戦は未勝利戦よりも賞金額が多い)という競走であった。2002年より2歳新馬戦の開始が早まったことにより、2003年の春季開催より未出走戦は廃止。
- 新馬戦の1発勝負化
従前は、新馬戦で敗れた競走馬は、同じ開催であれば新馬戦に何回でも挑戦できた。したがって、開催の後半になると、未出走の馬と既に1回出走した馬が混在するようになるため、新馬戦に出走できる回数を増やす為に開催の前半に出走するように調教を施す必要があったり、開催の後半に出走体勢が整った競走馬が出走を控えたりもした。その結果、開催1週目と最終週の競走に出走馬が殺到するなど、番組編成にも支障をきたすなどの影響もあった。2003年の夏季開催より新馬戦の出走はデビュー戦1回のみに限定された。
[編集] 参考・2着馬以下の賞金
JRAでは、2着馬には1着馬の本賞金の40%、3着馬には同25%、4着馬には同15%、5着には同10%の賞金が支払われる。
また、6~10着の馬にも、1着馬本賞金の7~2%の出走奨励金が出る(ただし9~10着には出走奨励金が出ない場合がある)。
[編集] 参考・賞金の配分
中央競馬の競走で獲得する賞金は配分が決まっており、80%をその馬が保有する馬主、10%をその馬の管理する調教師、残りは5%ずつを厩務員(調教助手含む)と騎手に割り当てる。よって1着の優勝賞金が8000万円だとすれば、6400万円が馬主、800万円が調教師、残りの400万円ずつを厩務員と騎手が取得するということとなる。
[編集] 地方競馬のクラス
地方競馬のクラス編成は、番組賞金と呼ばれる値で行われる。ただし、この番組賞金という値の決め方は各地域によってさまざまであり、この違いが転厩する際に自分が少しでも有利な場を求める動機にもなっている。 地方競馬で収得賞金と呼ぶ値は、その馬の生涯に獲得した賞金額であり、中央競馬の収得賞金とは全く異なる。
また中央競馬とは大きく異なる点として能力検定競走が存在する。 通常競走能力検定(能検)といわれる模擬レース(非開催日に一般非公開で行う)に出場し、そこで基準タイム以内で走破すれば競走馬としての出走資格を得る(ちなみに中央競馬に能検はない)。その後、中央と同様に新馬戦でデビューすることになる。
[編集] 南関東地区の場合
クラス分けについては、一例として南関東では、上位から次のようになっている。【】内は馬の年齢と最初の決定時点の月・獲得賞金額を示す。それまでの間は、獲得賞金ごとにグループ分けされる。
- A1【3歳1月、3900万】
- A2【3歳2月、2800万】
- A3【3歳3月、2100万】
- B1【3歳4月、1500万】
- B2【3歳5月、1100万】
- B3【3歳7月、900万】
- C1【3歳9月、500万】
- C2【4歳1月、300万】
- C3【4歳4月、30万~300万】
基本的には前々開催の最終日までの獲得賞金で決まるが、中央と異なるのは5着までの入賞賞金がそのままクラス分けの対象となる。したがって、未勝利でも上位入賞が多いと賞金が加算されてクラスが上がりうるが、中央競馬よりも2着以下の賞金の配分は少ない(重賞の場合2着賞金は1着賞金の35%、重賞以外では25%)。また、賞金額と馬の年齢、賞金獲得時期が絡むなどかなり複雑な制度となっている。また、あるクラスを上位、下位に組分け(C1一組、C1二組など)していることがある。
おおよそであるが、Aクラスで中央オープン(ダート統一GIレベル)~1000万円下クラス、Bクラスで1000万円下~500万下クラスと同レベルであろう。
クラス移動は1月と7月に行われるが、中央のように大きく降格することは無い(古馬に不利な制度と言われる)。