移植 (医療)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移植(いしょく、英transplant)とは、「提供者(ドナー、donor)」から「受給者(レシピエント、recipient)に組織や臓器を移し植えること。移植で用いられる組織や臓器を「移植片(graft)」という。
以下に示すように様々な移植の形態が存在するが、一般には臓器を移植する場合が話題となるため臓器移植として知られている。
なお思想的・宗教的立場から、臓器の移植は医療ではないという主張もあるが、少数派として扱われている。
医療情報に関する注意:ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。免責事項もお読みください。 |
目次 |
[編集] 分類
[編集] ドナーとレシピエントの関係による分類
- 自家移植:自己の組織を自己の他の場所に移し変えること。
- 他家移植:自己以外の組織を移し変えること。
- 同種移植(allotransplantation):人間の組織を用いる。
- 異種移植(xenotransplantation):人間以外の組織を用いる。
- 人工移植(implant):形成術ともいい、人工材料を用いて臓器修復することをいう。主に人工血管や皮膚、心臓弁置換術において行われる。
[編集] ドナーの状態による分類
- 生体移植:生きているドナーから提供されること。
- 死体移植:死亡したドナーから提供されること
- 脳死移植:ドナーが脳死と判断された後に臓器等を取り出すこと。
- 心臓死移植:ドナーの心停止後に臓器等を取り出すこと。
[編集] 対象
腎臓、膵臓、角膜および組織は心臓死移植が可能である。生体移植の例として、生体腎移植、生体肝移植、生体肺移植、生体膵移植、骨髄移植などがあるが、輸血は最も一般的で広く行われている代表的な生体移植の一つである。
[編集] 歴史
[編集] 移植の黎明期
日本においては、1956年に腎臓、1964年に肝臓の移植が初めて行われた。1968年には札幌医科大学の和田寿郎教授によって、世界で30例目の心臓移植が行われ、移植患者は83日間生存した。いわゆる和田心臓移植である。移植患者の生存中は賞賛されたが、死後に、提供者の救命治療が十分に行われたかどうか、脳死判定が適切に行われたかどうか、レシピエントは本当に移植が必要だったかどうかなど、厳密な脳死判定基準のなかった当時の脳死移植は多くの議論を呼んだ。和田教授に対しては殺人罪の刑事告発もされたが、移植に直接携わった関係者の謎の事故死なども相次いだため、立件には至らなかった。 功名心にかられた和田心臓移植の失敗によって、日本には移植医療や医療への不信が高まりを見せ、移植医療の発展を遅らせた直接の原因とされている。
[編集] 心臓死移植の発展
1979年、「角膜及び腎臓の移植に関する法律」が成立し、心臓死移植に関する法律が整備された。この法律によって、家族の承諾により、死後の腎臓および角膜の提供が認められるようになった。以後、心臓死下の腎臓移植が毎年150〜250件、角膜移植が1600〜2000件行われるようになった。しかしながら、日本では脳死をヒトの死と認めない傾向が強かったため、その後はもっぱら心臓死移植のみが行われ、脳死移植は長期に渡り行われることがなかった。
[編集] 脳死移植の幕開け
1997年10月、臓器の移植に関する法律が施行され、本人が脳死判定に従い臓器を提供する意思を書面により表示しており、かつ家族が脳死判定並びに臓器提供に同意する場合に限り、法的に脳死がヒトの死と認められ、脳死移植が可能となった。この法律は、臓器提供に関係なく脳死をヒトの死とし、本人の意思が不明であっても家族の承諾で提供可能な欧米・アジア・豪州などに比べて比較的厳しいものとなっている。一方で、脳死をヒトの死とすることに疑問を投げかける人々からは強い批判があり、臓器移植自体を医療として認めない人々も多く、この法律には様々な立場からの反対運動が継続している。
「臓器の移植に関する法律」の成立とともに、臓器提供の意思を表示する手段として、臓器提供意思表示カードが配布されるようになった。また、臓器のあっせんを行う機関として、厚生労働省の認可により、社団法人日本臓器移植ネットワークが発足した。
1999年2月、この法律に基づく脳死移植が初めて行われた。高知県内の高知赤十字病院に入院中の脳死の患者より、本人の意思表示並びに家族の承諾に基づいて、心臓、肝臓、腎臓、角膜が移植された。以後、毎年5件前後の脳死移植が行われている。しかしながら、移植を希望し登録している患者は増加する一方であり、また、海外へ移植を受けるために渡航する患者が後を絶たない。 特に、15歳以下の子供の臓器移植については、日本では法的に不可能なために海外へ渡航せざるを得ず、数千万円に及ぶ高額な医療費を工面するための募金活動が行われることが多いが、一部のインターネットコミュニティで募金詐欺の疑いをかけられることも発生するようになった。
「臓器の移植に関する法律」は3年を目処に見直すことになっているが、議員立法であったこの法律成立の過程に配慮してか、行政府は改正案を出さずに議員有志の改正案作成に委ねているというのが現状である。
[編集] 生体移植
1964年に生体腎移植、1989年に生体部分肝移植が初めて行われた。1992年には骨髄バンク、1999年にはさい帯血バンクが生まれ、骨髄移植、造血幹細胞移植の仕組みが整備されている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク