直立二足歩行
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直立二足歩行(ちょくりつにそくほこう)とは、脊椎を垂直に立てて行う二足歩行のことである。 現存する生物のうち、訓練せずに日常的に直立二足歩行を行うのものとしては、ヒトとペンギンが代表的である。
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[編集] ヒトの歩き方
ペンギンは胴体の側面に下肢が付くが、ヒトの場合は胴体の真下に下肢が付き、股関節が体の中心軸に近く、左右の揺動が少なく済むような構造になっている。ペンギンよりもはるか直立二足歩行に適応した構造となっている。 胴体が垂直に立っているため、胴体の重心位置は股関節よりかなり上に位置することになり、偏心モーメントを発生することになる。ヒトの場合、胴体の重心位置はみぞおちのやや上、全身の重心位置はへそのやや下になる。そのためヒトが歩行を始めると、その反動が胴体にモーメント力(回転力)として伝わることになる。このモーメント力を床面まで伝えて打ち消す必要があるので、太い脚と大きな足裏、それを動かすための余分なエネルギーが必要となる。自然界で直立二足歩行があまり見られないのはエネルギー効率が悪いためであると考えられている。
二足歩行には幾つか種類があり、その違いを歩様(歩容と書く場合もある)。 二足歩行の歩様にはウォーク(常足、なみあし)、トロット(速歩、はやあし)、ギャロップなどがある。単に歩行と言った場合はトロットのことと考えて差し支えない。
トロットとは交互に軸足が切り替わり、常にどちらかの足が地面に付いている、跳躍期の無い歩き方のことを言う。軸足は瞬間的に入れ替わり、両方に体重がかかっている期間は無いか無視できるほど短いものとされる。トロット歩行の場合、歩行という一見複雑な運動を、軸足の接地点を回転中心とした回転運動として捉えることができる。
歩行が回転運動だとすると遠心力が発生するはずである。このときの遠心力Fは下の式で表される。vは重心の移動速度(=歩行速度)、rは重心位置の高さ、mは質量である。
Fをmgと置き換えると、次の式が導かれる。gは重力定数である。
これは歩行の限界速度を表す式で、これより速い速度で歩行すると遠心力により自然に脚が床面から離れ、走行に移行することを意味している。人間の重心位置の高さを1.2mとすると歩行の限界速度は12.3km/hとなる。 競歩の世界記録は13.6km/h (50Km)。腰の捻りや足裏のストロークなどが加わるため理論上の数値よりは大きくなる。短距離では16km/hほどまで速度があがるが、これは腰を落として回転運動にならないように強引に体を水平に動かしているためで、疲労の度合いが激しい。
トロット歩行の場合、水平方向の運動量は理論的には次のステップへ100%伝達される。上下方向の運動量は床面との衝突により失われてしまうが、ヒトの場合、重心の位置エネルギーをアキレス腱が保存し、軸足交換時に体を蹴り上げて次のステップに伝えていると考えられている。
両方に体重のかかる期間のある歩様をウォークと言うが、両足が地面についていると重心の速度ベクトルの向きが一方向に拘束されてしまう。そのため、ステップごとに上下方向の運動量に加えて左右方向の運動量も失われる(重心の軌跡がジグザグになる)ので、エネルギーコストが著しく悪化する。それゆえ、あまり行われていない歩行と考えられている。
[編集] ヒト以外の動物の場合
ヒト以外で日常的に直立二足歩行を行う動物としてはペンギンが代表的である。ペンギンは下肢が胴体の側面に付く。したがって、ペンギンは、歩行時には軸足のほうに体重を乗せないといけないため、歩行時の左右方向の揺動が大きく、いわゆるよちよち歩きとなる。さいわい胴体が長く重いので、動力学的にはよちよち歩きには好都合で、見た目ほどエネルギーコストは悪くないと考えられる。
訓練をすれば、ほかの動物でも直立二足歩行は可能になる。霊長類、クマ、イヌをはじめとして多くの動物が二足歩行を行うことが出来るようになる。しかし、直立二足歩行はステップの衝撃が頭部に直接伝わるので、直立二足歩行に適応していない生物が長時間二足歩行を行うと脳に影響が出る恐れがあると考えられている。
自然界ではトリのように胴体を水平にした歩行法のほうがはるかに多く見られる。これは、トリ型歩行のほうが直立二足歩行よりエネルギーコストが良いためであると考えられている。
[編集] ヒトの歩行の発生と発展
最も古い人類としてはサヘラントロプスやオロリンなど、600~700万年前と考えられる化石が発見されているが、断片に過ぎず、彼らの歩行様式についてはよくわかっていない。300万年前のアファール猿人では、かなり良好な骨格化石が発見され、また足跡化石も残されていて、直立二足歩行が行なわれていた事が明らかである。160万年前の原人段階では、下肢の骨格が現生人類と殆ど変わらず、直立二足歩行が完成の域に達していた事が伺える。