漢風の姓名
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漢風の姓名(かんふうのせいめい)では、中国を中心とする漢字文化圏における姓と命名法について述べる。原則として字音のみによって発音される漢字を組み合わせたものを指し、日本における氏姓制度に始まる苗字と命名法を含まない。
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[編集] 姓
姓は漢字一文字の単姓を基本とするが、漢字二文字以上の姓(複姓)も存在する。複姓の代表的なものに司馬があるが、司馬とは軍事職のことである(時代により役割は異なる)。
中国では、張・王・李などの姓が目立ち、ベトナムでは、阮・黎・李などの姓が目立ち、朝鮮では金・李・朴などの姓が目立つ。どの国でも多い姓は李であり、李は世界で最も多い姓としてギネスブックにも紹介されている。
[編集] 名
古代中国においては、姓は漢字一文字、名も漢字一文字が通例であった。しかし、これだと同姓同名が多くなるために前漢中期ごろから二文字名が増えてきた。しかし王莽の復古政策により二名の禁が行われ、二文字名が禁止されたため、後漢から魏にかけては二文字名はほとんどいない。しかし魏晋南北朝時代から二文字名が再び増え、現在ではほとんどが二文字名である。この場合、二字の内一字(多くは一番目の字)には世代間で共通する輩行字(朝鮮では行列字と呼ぶ)が使われる。なお前近代においては、目上の人の名(諱)を直接呼ぶことはタブーとされ、別に成人してからつけた字で呼ぶことが普通であり、また自称として号を名乗ったり、死後には諡を贈ってこれを用いるなど、複数の名前が存在するのが常態であった。
[編集] 日本
日本においては漢風の姓名はごく一部の例外を除いて見られないが、奈良時代以降旧来の氏名(ウヂナ)を佳字に変える動きが見られ、名も伝統的な動植物名に基づくものから、漢風の二文字名を用いる「名乗り(諱)」と、より和語的な「通称」に分化している。
また、字音で読む姓は少数であるが、唐風文化が盛んであった奈良時代から平安時代初期においては、藤原氏を藤氏、菅原氏を菅氏というように姓を漢字一文字とし字音で読むことが行われていた。また、琉球処分以前の琉球では、士族は漢風の姓名(「唐名(からなー)」と呼ばれ、現在でも姓のみは「氏」として門中の呼称となっている)と、領地の名(采地名)を「名乗り」に冠した「大和名(やまとぅなー)」の双方をもっていた。日本の戸籍制度の適用以降、姓には尚家を除き「大和名」の采地名が採用され、これが「家名」となった。
[編集] 朝鮮及びベトナム
ベトナム人が漢風以外の固有の姓をかつてもっていたかどうかを確認できる史料は存在しない。一方朝鮮では漢風ではない固有語による名の記録があり、遅くとも7世紀までには固有語の命名法が消え、漢風の姓名が採用された。朝鮮の命名法には五行思想の影響が強く見られ、名には「金」「木」「水」「火」「土」の部首を持つ字が使われることが多い。
現在、大韓民国のソウルに住む若夫婦の間では、「金きらきらひかる」といった固有語による命名が見られるようになっている。またベトナムでは姓は全て漢字に由来するが、農村部を中心に字音によらない固有語の命名の例が前近代から見られる。ただし前近代では諱ではない通称に限られ、現在でも女性名に多い。
[編集] 関連項目
- 「日本人の姓名の歴史的変遷」、「沖縄における姓名の歴史的変遷」、「中国人の名前」、「韓国人・朝鮮人の名前」、「ベトナム人の名前」の各節