容疑者Xの献身
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『容疑者Xの献身』(ようぎしゃエックスのけんしん)は、東野圭吾の推理小説である。物理学者湯川シリーズ第3弾。2003年から文芸誌『オール讀物』に連載され、2005年8月文藝春秋より出版された。第6回本格ミステリ大賞、第134回直木賞受賞作。この作品に対しての受賞というよりも、今までの功績に対して与えられたもの。また、国内の主要ミステリランキングである『本格ミステリ・ベスト10 2006年版』『このミステリーがすごい!2006』『2005年「週刊文春」ミステリベスト10』においてそれぞれ1位を獲得し、三冠と称された。(のちに前出の2賞を取り最終的に五冠となった。)
目次 |
[編集] あらすじ
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
花岡靖子は娘・美里とアパートでの二人暮らし。
物語は靖子の元夫、富樫慎二が彼女の居所を突き止め、訪ねてきた事から始まる。どこに引っ越しても疫病神のように現れる富樫を、靖子と美里は大喧嘩の末殺してしまう。今後の成り行きを想像し呆然とする母子に救いの手を差し伸べたのは、赤の隣人、天才数学者石神だった。
そして3月11日、富樫の死体が発見される。警察は花岡母子のアリバイを聞いて目をつけるが、捜査が進むにつれ、あと1歩といったところで悉くズレが生ずる事に気づく。刑事の草薙は困り果て、天才物理学者である友人、湯川に相談を持ちかける。
すると、驚いたことに石神と湯川は大学時代の友人だった。
天才数学者と天才物理学者の、殺人事件をめぐる隠蔽と解明が激しい攻防を生む長編ミステリー。そしてクライマックスでは倫理を超える真実の全貌が明かされる。
[編集] 登場人物
- 石神哲哉
主人公の一人。現高校教師(数学担当)。花岡靖子と同じアパートで隣の部屋に住んでいる。以前帝都大学の生徒であり、「天才」「ダルマの石神」との異名をとった(その頃湯川との交流があった)。数学の研究者になりたがったが家庭の事情により断念、自殺を考えた時期もあった。丸顔であり髪も薄いため老け顔である。数学に関するもの以外に興味をもたなかったが、最近ひそかに靖子に恋心を抱いている。
- 湯川学
現帝都大学物理学助教授。第十三研究室を使っている。東野圭吾の推理小説作品に何度か登場し、難事件を解決する。本作では石神と親友だったことが発覚。草薙とは帝都大学バドミントン部での同期だった。髪のボリュームは多めであり、石神とは対照的な部分が多く見受けられる。大学院2年の秋に、「磁界歯車」を考案し、某アメリカ企業が買いに来たことがある(机上の空論扱いをされたが)。なかなかの偏屈。
- 花岡靖子
赤坂でホステスをやっていたが、転職し「べんてん亭」の従業員に。離婚した富樫に追いかけられ、彼が美里に乱暴を働いたため殺してしまう。その後石神により窮地を脱するが、その難解な指図や自分への思いに戸惑いを隠せない。いつも美里を不幸に追い込んでしまうことを、申し訳なく思っている。工藤はホステス時代からの友人だった。
- 花岡美里
靖子の一人娘で中学生。バトミントン部所属。従順な一面もあるが、富樫を棒で殴打するなど勇気ある性格である。石神の母親への気持ちには気づいており、母と工藤の仲を快く思ってはいない。実は罪の意識を誰よりも深く背負っている。
- 草薙俊平
刑事。人にはやんわりとした態度を見せるが、油断をさせ情報を聞き出す手口は巧みである。刑事として独特の嗅覚を持つため、花岡母子に初めから疑いを持っていた。チェスを湯川としてもまるで勝てない。理数系コンプレックス。
- 富樫信二
靖子の元夫。美里とは血縁関係ではない。会社に勤めていた頃は紳士的だったが、リストラ後は本性をあらわす。
- 「技師」
ホームレスになって間もない男(石神が渾名をつけた)。まだ再就職の道を捨て切れていない。
- 岸谷
草薙と同じ班にいる若い刑事。人の良い性格で、花岡母子に同情的である。
- 工藤
靖子の元勤め先「まりあん」の常連客。靖子に好意的で、富樫との離婚事件についても便宜を図ってくれた。妻に先立たれており、近頃靖子が「べんてん亭」に勤めていることを知った。
[編集] 『容疑者Xの献身』をめぐる「本格」論争
2005年末、『容疑者Xの献身』が同年の「本格ミステリ・ベスト10」にて1位を獲得したことに、推理作家の二階堂黎人氏が自身のウェブサイト[1]で疑問を呈したことに始まる問題。彼の主張は、「『容疑者Xの献身』は、作者が推理の手がかりを意図的に伏せて書かれてており、本格推理小説としての条件を完全には満たしていない。(そのため、「本格ミステリ・ベスト10」の1位にふさわしくない。)」というものであった。このことに関して主に「ミステリマガジン」誌上に多くの作家や評論家が意見を寄せたため、本格的な論争となった。その過程で二階堂氏の説には多くの矛盾や見当違いが指摘されたが、氏は自説を曲げなかった。最終的には笠井潔氏などの有力者の多くが「『容疑者Xの献身』は本格である」という立場につき、更には2006年5月に同作品が第6回本格ミステリ大賞を受賞したこともあり、現在では二階堂氏の意見に反対する形で議論が収束している。
[編集] 作品にまつわる話
- 『オール讀物』連載当時は「容疑者X」という題名だったが、出版に向けて改題された。
- 作者である東野圭吾は、過去、直木賞に5度ノミネートされながらも全て落選していたため、悲願の達成となった。