固有値
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線型代数学において、線形変換の特徴を表す指標として固有値や固有ベクトルがある。与えられた線形変換の固有値および固有ベクトルを求める問題のことを固有値問題(Eigenvalue problem)という。ヒルベルト空間論において線型作用素 あるいは線形演算子 と呼ばれるものは線形変換であり、やはりその固有値や固有ベクトルを考えることができる。固有値という言葉は無限次元ヒルベルト空間論や作用素代数におけるスペクトルの意味でもしばしば使われる。
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[編集] 固有値・固有ベクトル
有限次元線形空間 V 上の線形変換 A に対して、次の方程式
を満たす零でないベクトル とスカラー λ が存在するとき、を(A の)固有ベクトル、λ を(A の)固有値と呼ぶ。
[編集] 正定値、半正定値
- 固有値が全て正の時、その行列 A は正定値行列(もしくは単に正定値)であるという。
- 固有値が全て非負の時、その行列 A は半正定値行列(もしくは単に半正定値)であるという。
この定義は対角化を用いることにより、二次形式の正定値、半正定値の定義と同値の関係であることが確認できる。
[編集] 固有値問題の解法
V の有限個の基底をとり、それによって A を行列として表現すれば、固有値は行列式に関する次の方程式を(対角化手法などを使って)解くことによって求められる。
- | A − λI | = 0
但しI は単位行列である。この方程式のことを固有方程式(または特性方程式)という。 V の次元を n とすると、固有方程式は λ についての n 次代数方程式であり、A はこの方程式の根として一般的には n 個の固有値を持つことがわかる。(参考:代数学の基本定理)
特に行列 A が実対称(或いはエルミート)の場合、固有方程式は永年方程式とも言われる。また行列 A が実対称かエルミートなら固有値は必ず実数となる。
n の値が大きければ固有値問題は数値的対角化手法(→ヤコビ法、ハウスホルダー法など)によって解かれることとなる。行列 A が実対称やエルミートでない場合は、これを解くことは一般に難しくなる。
V が関数空間である場合には、固有ベクトルのことを固有関数ともいう。
[編集] 量子力学における固有値問題
量子力学においては固有値問題が次のような形で現れる。 まず、考える系のハミルトニアンを H とし、x を状態ベクトルとするとシュレーディンガー方程式(時間に依存しないとする)は、
に帰着される。これは固有値問題そのものであり、これを解くことで固有値 ε が求められる。この ε をエネルギー固有値、またはエネルギー準位と呼ぶ。この時、同時に得られる固有ベクトル x は、系の波動関数 ψ に相当する。エネルギー固有値が求まった場合、波動関数はエネルギー固有状態になっているという。また、異なる固有値に対応する固有ベクトルは互いに直交している。ハミルトニアンのかわりに任意の物理量の演算子を作用させてよく、もし固有値が得られたならば、それがこの状態での物理量の値となる。
実際の多電子系などの数値計算においてはエルミート演算子を有限サイズのエルミート行列で近似することになる。つまり、本来、状態ベクトルのなすヒルベルト空間が無限次元であれば、行列による表現は無限行、無限列であるが、これは現実に計算することは不可能なので、有限の大きさに切断して近似的に計算が実行される。波動関数は適当な基底関数の展開で表現され、求めるべき基底関数の展開係数が固有ベクトルに相当することになる。展開係数の数も本来無限個必要であるが、有限の数で切断(カットオフ)される。切断は、求めるべき物理量(全エネルギーなど)が精度として十分に収束するところで行う必要がある(解くために必要な数値計算量にも依存する)。
[編集] 解析ソフト