北朝鮮によるミサイル発射実験 (1998年)
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1998年8月31日に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が行ったミサイル発射実験がテポドン1号の試験であったといわれている。このミサイルは大気圏外とはいえ事前通告なしに日本上空を通過したため、日本側に反発が起きたほか、アメリカ本土にも届く大陸弾道弾としても転用が可能なため北東アジアの平和に深刻な懸念材料になったとされている。なお北朝鮮側は人工衛星の打ち上げだと主張している。
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[編集] 概要
テコポンロケット(運搬手段)としての北朝鮮での正式名称は「白頭山1号(ペクトゥサン イルホ)」であるが、人工衛星の運搬手段のかたちで試験的に発射されたのがこの騒動の原因であった。
テコポン・ブースターは津軽海峡付近から日本列島を越えるコースを飛行し、途中、第一段目は日本海に,第二段目は太平洋に落下した。
この行為に対し当時の日本の小渕内閣やマスコミ・世論は敏感に反応し、北朝鮮が新型の弾道ミサイルの発射実験を行ったとして、以前行った1993年5月のノドン発射の際には表に現れなかった北朝鮮に対する極度の反発がまき起こった。
[編集] 光明星1号
日本側の反発に対し、北朝鮮側は自国の自主権を踏みにじる行為と反論していた。しかし北朝鮮の最高人民会議が開催された9月4日になって、北朝鮮国内向けには発射時の映像とともに発射は人工衛星「光明星1号」の打ち上げであり、地球周回軌道への投入に成功したと報道した。
北朝鮮側の主張によれば、人工衛星は地球の周回軌道に乗り、金日成と金正日を賞賛する音楽の旋律をモールス信号を発しているとし、それとともに人工衛星の軌道要素も発表した。しかし地球軌道上の人工物体を監視しているアメリカ合衆国の北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)はそのような人工衛星は確認できないとした。
これは北朝鮮は軍事目的ではなく人工衛星の打ち上げであったと主張するものであった。そのうえ実験の成否に関わらず実験を「成功」を発表するつもりであったとも考えられる。これは現地時間の午後12時7分に『発射』したあと4分53秒後に磁気軌道に投入したとまで発表した事である。
そのためテコポン・ミサイルのブースター性能実証を兼ねた3段式の宇宙ロケットであったが、3段目の固体燃料ブースターが加速せず衛星もろとも落下した「人工衛星の打ち上げ失敗」との見方がアメリカ・韓国・中国・ロシアなどその他の諸外国では大勢となった。ただし、日本政府は独自の分析から世界中でただ一国「弾道ミサイルの発射実験」であったと断定している。
[編集] 影響
国際法上、いかなる国も周辺国に対し発射の事前通告義務があるわけではないが、不測の事態を回避するために発射する通達ぐらいは国内向けでも事前通告するのが当然であるというものである。くしくも同時期に台湾海峡危機で中華人民共和国は台湾を牽制するためにミサイル発射実験を行ったが、すべて事前に目標海域を通告していた。またイスラエルも周辺のアラブ諸国にロケットの残骸が落下して紛争の火種にならないために軌道投入に不利になる方向に衛星ロケットを発射している。
また前述の中国のミサイルは目立つように白色に塗装されていたが、テポドン1号は核保有国が持つICBMのようなオリーブドラブで塗装していたため、心理的配慮もなされていなかったといわれている。
この打ち上げを契機として日本政府は、このような事態をなるべく早いうちに把握するためとして、偵察目的の情報収集衛星を導入することを決定した。