保護スーツ
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保護スーツ(exposure protection suit, exposure suit)はスクーバダイビング、サーフィン、ウィンドサーフィン(セイルボード)、ヨット、釣り(フィッシング)、水上オートバイ(ジェットスキー、マリンジェット)等のウォータースポーツ、あるいは水中土木、レスキュー・サルベージ、海上建築物上での作業等の職業的な水中・水上活動において、身体を体温損失や外傷、有害生物等から保護ために用いられる衣服である。特に水上活動においては、着用によりある程度の浮力を確保できることから安全性が向上する意義もある。スーツ内部への水の浸入の有無により、ウエットスーツ、ドライスーツの2種に分類される。 日本では、水温が低い時期に水泳・遊泳することが少ないため、これらの活動で保護スーツを着用することはあまり無いが、トライアスロンなどの競技者や、夏でも水温が低い北欧等の地域では、これらの活動に際してもウエットスーツを着用することがある。
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[編集] ウェットスーツ(wetsuit, wet suit)
ウェットスーツ(ウエットスーツ、en:Wetsuit)とは、内部に気泡を含むクロロプレンゴム製の生地からできた、身体に密着する衣服である。生地の厚みは通常2-7mmであり、厚いものほど保温性に優れるが、反面運動性は制限され、かつ浮力が大きくなって、ダイビングにおいてはより多量のウェイトが必要になる。日本では、ダイビング用では5mm、サーフィン用では3mm程の厚さのものが最もよく使われている。水中では内部に水が浸入するが、適切なサイズのものを着用していればその量は少量であり、浸入した水がスーツと身体の間に薄い水の層を形成する。水の層は体温ですぐに暖められるため、それにより冷たさを感じるのは短時間である。反面、スーツのサイズが大きすぎ、身体に密着しない部分があった場合、身体の動きに応じて水が出入りしてしまうため、保温性が大きく損なわれる。したがって、着用に当たってはサイズを慎重に選択する必要があり、また着用者の身体のサイズに合わせて製作する、いわゆるフルオーダーメードも普通に行われている。同じ理由により下着は着用しないか身体に密着する競泳用の水着程度のものにする場合が多い。また、近年ではラッシュガード・ウェットインナーなどを着用する場合がある。
形態としては
- ワンピース フルスーツともいう。長袖、長ズボン型で上下が一体となったもの。
- シーガル 半袖、長ズボン型で上下が一体となったもの。
- ロングジョン 袖なし、長ズボン型で上下が一体となったもの。
- スプリング 半ズボン型で上下が一体となったもの。半袖型と長袖型がある。
- ジャケット タッパーともいう。上半身のみで長袖のものと半袖のものがある。ビーバーテールと呼ばれる、ずり上がらないための股がけを有したものもある。
- ボレロ 上半身のみで袖なし。
- パンツ 下半身のみ。半ズボン型と長ズボン型がある。
などがあり、要求される保温性や運動性に応じ、それぞれ単独で、あるいはロングジョン+ジャケット、ワンピース+スプリングのような組み合わせで着用される。
素材としては
- スキン クロロプレンの素地が表面に露出したもの。水分をほとんど吸収せず、また皮膚への密着性が良いため、内面、外面のどちらに用いても保温性に優れたスーツとなるが、強度が弱く、また色は黒一色となるためデザイン性に劣るという欠点がある。内面に用いた場合滑りが悪く着脱に難儀することから、滑りを改善する加工をしたものもある。内部に気泡(スポンジ)を形成させるために硫黄変性の合成ゴムに軟化剤、カーボンブラック、充填剤、発泡剤、架橋剤などを混ぜたものが用いられる。サーフィン用など、水上での活動が主となる用途では、水分の蒸発により熱が奪われることを防ぐため、ほとんどのスーツは外側をこの素材で構成している。ダイビング用スーツの素材には、水圧で気泡が潰れにくいよう、硬めの素材を用い、サーフィン用などのスーツの素材には、身体の動きを束縛しないよう、柔らかめの素材を用いるため、ダイビング用のスーツをサーフィン用に流用したり、その逆をしたりすることは好ましくない。
- ジャージ スキン素材の表面に、ニット地を貼り付け加工したもの。スキン素材と比較して強度は上がり、またさまざまな色のものを製作可能であるが、表面が水分を吸収し、またスキン素材ほど皮膚に密着しないため、保温性は若干低下する。近年ではこれを補うために表面部の加工処理やセラミックス類の添加が行われることもある。
- 起毛 スキン素材の表面に、厚みのあるニット地を貼り付け加工したもの。細かな気泡を保持するため、内面に用いると保温性に優れたスーツができる。登場したのが1990年代の終わり頃と比較的新しい素材であるが、スキン素材やジャージ素材の欠点であった、濡れた状態で非常に着にくいという点で大きく改良されていることもあって、2006年現在では主流の素材となっている。
などがあり、外面ジャージ+内面起毛、両面スキンなど用途や着用される状況に応じて組み合わせが選択される。
俗にロクハンカブリあるいはロクハンと呼ばれるスーツがある。これは6.5mm厚の両面スキン素材のロングジョン+ジャケットであり、ファスナー等を一切有さない。着脱には相当の熟練を要するが、反面身体への密着性が非常に高いことから保温性や着用後の運動性に優れており、一部のベテランスキューバダイバーに賞用されている。
セミドライスーツ(semidrysuit, semi dry suit)はウエットスーツの1種であるが、ファスナーや首、手首、足首部の構造を工夫することにより、内部に水が浸入しにくくしたものである。型は通常全身一体のワンピース型である。ドライスーツよりは保温性が劣るが運動性に勝り、ウエットスーツよりは高価であるが保温性に優れているので、気温や水温が中程度の環境での着用に適している。
[編集] ドライスーツ(drysuit, dry suit)
ドライスーツ(en:Dry suit)は、ウエットスーツとは異なり、内部に水が浸入しない保護スーツである。着用者の身体が外部の水に触れることがないため、汚染された水域や、気温や水温が低い時期の着用に適している。型は全身一体のワンピース型で、特にダイビング用のものではブーツ、時にはフードやグローブまでが一体となっている。身体とスーツの間に何らかのアンダーウェアを着用することが前提のため、ウエットスーツ程身体に密着するようにはなっていない。着脱は防水性の特殊なファスナーが付いた開口部を通じて行い、さらに柔らかいゴムでできた防水性シールにより首、手首、足首からの水の浸入を防いでいる。スキューバダイビングに用いられるドライスーツは、内部にエアを送り込むバルブを設けることで水圧下での締め付け(スーツスクイズ)を回避できるようになっている。ヘルメット潜水で使用される潜水服も、ドライスーツの一種である。
スキューバダイビング用のドライスーツは、以下の2種に大別される。
- ネオプレンスーツ ウエットスーツに用いられるのと同じネオプレン生地を用いたスーツである。生地がある程度の保温性を有するためアンダーウェアは必要ないか、薄いものでよく、また身体に密着した構造にできるため、運動性に優れる。反面、生地の中に気泡を有するため、周囲の水圧により保温性と浮力が変化し、またシェルスーツと比較すると耐久性に劣る欠点がある。
- シェルスーツ 生地に防水性の布地を用いたスーツである。生地に保温性はほとんどなく、別途スキーウェア状のアンダーウェアを着用する必要があり、またそのための余裕を持たせた構造になるため、運動性が若干制約される。反面、水圧による保温性や浮力の変化がなく、また強度や耐久性に優れた生地を使用できる利点がある。
スキューバダイビング以外で用いられるドライスーツは、ほとんどがシェルスーツ同様のものである。
[編集] ブーツ(boot)
足部を保護するためのクロロプレン生地と、ゴム製の底からできた靴である。整備された砂浜以外の環境では、水底の物体で足に外傷を負うことを防ぐため、着用が必須である。
ゴム底の形状から動きやすいラダーソールと滑りにくいデッキソールに別れる。
[編集] グローブ(glove)
主に手の障害防止を目的に着用する。水温により、織物製、クロロプレン生地製、また低水温や汚染水域用にゴム製でドライスーツ本体と一体化したものなどさまざまな形式のものが用いられる。保護されているという意識からダイバーが水底の物体に不用意に手を付くようになり、自然破壊につながるとして、グローブを着用することを禁止している地域もある。
[編集] フード(hood)
体温の損失を防ぐため頭部から首に着用する。水中において、血行量の多い頭部からの体温損失は、全身からの体温損失の20%を占めると言われており、常時水中での活動となるスキューバダイビングではそれほど低い水温でなくてもフードの着用が必須である。通常クロロプレン生地製であるが、低水温や汚染水域用にはドライスーツ本体と一体化したゴム製のものもある。