人権擁護法案
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人権擁護法(じんけんようごほう)は日本の法律案(2006年12月現在)。日本では初の包括的な人権擁護を目的とする法律案である。ただ、その法制度や運用方法、必要性などを巡って賛否両論がある。
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[編集] 経緯
この法案は、2002年の第154回国会に提出され、2003年の衆議院解散の際に廃案となった法案だが、2005年2月、突然政府・与党が一部修正を加えた上で再提出する方針を固めた。しかし、自民党内で反対意見が噴出した。自民党執行部は、2005年7月に第162回通常国会での法案提出を断念した。だが、自民党の中川秀直国対委員長は2005年9月18日に放送されたサンデープロジェクトで法案が再提出されるであろうと言う見通しを示し、同年9月29日の参議院本会議では民主党の神本美恵子議員の人権侵害の問題に関する質問に対して、小泉純一郎内閣総理大臣が「人権擁護法案を、出来るだけ早期に、提出出来るように努めて参ります」と答弁して法案成立に意欲を見せた。
この法律案により設置される行政機関である人権委員会(仮称、以下同じ)に対して、その権限の大きさ、委員の選出過程の不透明さなどが批判の対象となっている。これについては国連人権小委員会より提案された国内人権機構の地位に関する原則(パリ原則)に沿ったものとなることが求められている。
[編集] 人権委員会概要(案)
- 人権委員会
- 行政委員会(いわゆる三条委員会)である。常勤の委員長1名、常勤の委員1名、非常勤の委員3名、計5名の委員によって構成される。国会両院の同意を得て内閣総理大臣が任命する。
- 事務局
- 人権委員会の事務を行うため、人権委員会に置かれる。事務局の職員には「弁護士となる資格を有する者」を加えなければならない。
- 人権擁護委員
- 地域社会における人権擁護の推進を図るため、人権委員会に置かれる。全国で2万人を上限に選ばれる。人権委員会が定める区域別に「人権擁護委員協議会」を設置する。職務は、情報収集、予防活動、団体との連携協力、その他人権擁護活動である。
- 人権調整委員
- 中央。調停・仲裁を必要とするとき。非常勤。
[編集] 法律案を巡る動向、その他
自民党と公明党はこの法律の成立に積極的であった。これに対し共産党が思想による弾圧に悪用されると反対した。
その後「救う会」が「日本人拉致問題の解決の妨げになる」として反対し、産経新聞、日本文化チャンネル桜等のメディアや西村幸祐、櫻井よしこ、西尾幹二ら識者、自民党の一部議員、民主党の保守系議員にもこれに同調する意見が出るようになる。
一方、野党の民主党は、2005年7月の自民党執行部の法案提出断念を受け、8月1日、その対案である人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律案(人権侵害救済法案)を国会へ提出した。人権擁護法との主な違いは以下の通りである。
- 中央人権委員会(人権擁護法での「人権委員会」に相当する)に加え、地方人権委員会が設置される。
- NGOや「人権侵害による被害を受けたことのある者」等、特定の運動家が人権委員になるように努めなければならないと明文化されている。
- 内閣総理大臣に対し意見を提出することができる。
[編集] 今後の動向
民主党案は2005年8月8日の衆議院解散により廃案となっているが、第44回衆議院議員総選挙終了後小泉純一郎総理大臣は人権擁護法案の再提出に意欲を見せた。しかし、新任の杉浦法相は、就任会見で「出し方が悪かったという気もするし、中身にも問題がある。出直しというところではないか」と述べ、現行法案では国会提出は困難との認識を示している。
また、自民党の中での主な推進派の古賀誠元幹事長が七月の郵政民営化法案の衆院採決を棄権したため党の戒告処分を受けて、党人権問題調査会長を退き、自見庄三郎、熊代昭彦ら郵政民営化法案に反対票を投じて自民党を追われ、選挙で落選、不出馬に追い込まれた者がいるほか、内閣府特命担当大臣(金融、経済財政政策担当)となった与謝野馨、経済産業大臣となった二階俊博など法案推進の一線から退き、推進派の有力者で2006年の通常国会への提出に意欲を見せているのは中川秀直政調会長のみとされていた。
一方で、反対派は平沼赳夫、城内実、古屋圭司、古川禎久など総選挙の後落選、または自民党を離党した人物が多く、安倍晋三も官房長官、2006年9月には内閣総理大臣に就任、反対派の「真の人権擁護を考える懇談会」の議連は新会長選出を目指すが、活動は低調である。
そのため、法案の制定は仕切り直しの状況となっている。
その一方で、鳥取県議会が2005年10月に人権擁護法案をベースに策定した県人権侵害救済条例を見切り発車的に成立させたが、県内外から厳しい批判が殺到したため、2006年3月24日に条例施行を無期限凍結する条例案が採択され、現在は修正の上施行のための見なおし作業がおこなわれている。法案の反対派はこの条例の廃止を目指しており、その行方が争点の一つになりつつある。
2006年4月27日、市民団体「人権擁護法案を考える市民の会」(代表:平田文昭)によって『危ない!人権擁護法案 迫り来る先進国型全体主義の恐怖』という本が発売された(展転社、ISBN 4886562825)。インターネット上の法案反対派(一部のブログや匿名掲示板2ちゃんねる内等)では、「この本を何とか周知させて、日本を亡国へ確実に導くであろう人権擁護法案を永久に廃案にしよう!」と主張している。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 第154回国会(2002年)で提出された法案 (第157回国会で廃案)
- 2002年に廃案になった法案原文
- 国内人権機構の地位に関する原則(法務省)