ミサイル艇
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ミサイル艇(-てい)とは対艦ミサイルを装備した舟艇である。一般的にミサイル艇の排水量は満載排水量で800トン前後までで、この中でも大型のものはコルベットに分類されている場合もある。
目次 |
[編集] 歴史
ソ連は第二次大戦後、早くから対艦ミサイルの開発を行い艦対艦ミサイル(SSM)としてR-15「テルミート」(SS-N-2A Styx)を開発、魚雷艇の船体をベースに世界初のミサイル艇コマール型を建造し、続いてオーサ型を建造した。コマール型は1959年から1965年までに100隻以上が、オーサ型は改良型のII型も併せて1960年~1968年までに200隻以上が建造された。対する西側では対艦ミサイルの開発自体に力を入れていなかったため、ミサイル艇はノルウェーなどごく一部の国で開発、建造された程度であった。
ミサイル艇が注目されるのはエイラート事件後である。エイラート事件とは、第三次中東戦争中の1967年10月21日にエジプトのコマール型ミサイル艇がイスラエルの駆逐艦エイラートを撃沈した事件で、満載排水量約2,000トンのエイラートがわずか100トンにも満たないミサイル艇になすすべもなく撃沈された。この事件に西側は大きな衝撃を受け、対艦ミサイルの迎撃システムとしてCIWSの開発に乗り出したと同時に、中小国を中心にミサイル艇の配備が進むようになった。
最初のミサイル艇同士のミサイル戦は第四次中東戦争中の1973年10月6日にイスラエルとエジプト、シリアの間で生起したラタキア沖海戦である。この戦闘ではイスラエルのミサイル艇がシリアの魚雷艇、掃海艇と交戦した後、応援に駆けつけたシリアのミサイル艇と交戦し、シリアのミサイル艇5隻を撃沈した。戦闘を終えたイスラエルのミサイル艇は港に寄港したが、エジプトのミサイル艇がイスラエル船を攻撃しているとの情報を得たため、再び出航した。この戦闘ではエジプトのミサイル艇3隻をミサイルで撃沈した。この戦闘では約50発のガブリエルSSMとほぼ同数のP-15 SSMが発射された。この2つの戦闘の際使用されていたミサイルはアラブ側のP-15がアクティブ・レーダー・ホーミング、イスラエル側のガブリエルがセミアクティブ・レーダー・ホーミングであった。P-15はガブリエルより射程が長く、発射後誘導が必要なかったがECMやチャフに弱かったため、結局1発も命中させることができなかった。
重大な欠点としては、コルベット級の大型艇などの例外を除いて、艦対空ミサイル等の有効な自衛防空手段を持たない事があげられる。湾岸戦争においては、イラク海軍のミサイル艇は多国籍軍側の航空兵力に対して何ら対抗する手段を持たないため、A-6攻撃機や対潜ヘリコプターの発射する空対地ミサイル(対艦ミサイルとして使用)によって撃沈もしくは大破させられた。互いに制空権を持たない中小国間の紛争はともかくとして、制空権がすでに敵側に握られている場合は有効な手立てを持てない事が多い。最近では、一部のミサイル艇や哨戒艇では携帯地対空ミサイルやその改造型が装備されている事もある。
ミサイル艇は初期にはアメリカ海軍のような外洋海軍でも配備された(ペガサス級 - 地中海域に配備予定だったが挫折)が、近年では中小国や、地理的な状況から沿岸海域での行動能力が重要視される国などで配備され、外洋での活動を重視する海軍では数を減らしてきている。
[編集] 船体
初期のミサイル艇の船体は魚雷艇の影響を大きく受けていたため、機動性が高く被探知性が低い小型の船体を使用していた。しかし対艦ミサイルは魚雷より有効射程が長いため、魚雷艇のように危険を冒して敵艦へ接近する必要がなくなり、それにより速度や機動性の重要性は低くなった。そのため、その後建造されたミサイル艇は最高速力を35kt程度に抑える代わりに航洋性や居住性を高め、哨戒艇にちかい運用方法をとるものが増え、若干の対潜対空能力を備えたコルベットに近いタイプも開発された。高速での航行能力に長けたハイドロフォイル(水中翼)型のミサイル艇も開発されたが、建造費が高く、速力に制約があったことなどから建造されたのはわずかにとどまった。
近年においてはステルス性を持たせたものが増えており、その典型的なものがスウェーデンのコルベットヴィズビューである。
[編集] 保有国
発展途上国のような十分な海軍力を持たない国で特に重宝される傾向にある。逆にアメリカをはじめとする外洋海軍では外洋航行能力の低いミサイル艇の需要は少ない。
[編集] ミサイル艇一覧
以下に各国に配備されているミサイル艇の一覧を示す。括弧内は所有国名と搭載ミサイルである。
- はやぶさ型(日本、SSM-1B)
- ミサイル艇1号型(日本、SSM-1B)
- ウム・アルマラディム級(クウェート、シー・スクア)
- バルザン級(カタール、エグゾセ)
- 紅箭型(中国、C-801またはC-802)
- ラウマ級(フィンランド、RBS15)
- ヘルシンキ級(フィンランド、RBS15)
- フリーヴェフィスケン級(デンマーク、ハープーン)
- ヴイッレモーエス級(デンマーク、ハープーン)
- アル・マナマ級(バーレーン、エグゾセ)
- アーマド・エル・ファテ級(バーレーン、エグゾセ)
- ストックホルム級(スウェーデン、RBS15)
- ラ・ガリテ級(チュニジア、エグゾセ)
- ベイル・グラッサ級(リビア、オトマート)
- 143A型(西ドイツ、エグゾセ)
- 148型(西ドイツ、エグゾセ)
- ラマダン級(エジプト、オトマート)
- 海鴎型(台湾、雄風I型)
- アル・シディク級(サウジアラビア、ハープーン)
- エクペ級(ナイジェリア、オトマート)
- タランタル型(ソ連、P-15M Termit-R(SS-N-2C))
- ナヌチュカ型(ソ連、P-50 Malakhit(SS-N-9))
- オーサ型(ソ連、P-15 Termit(SS-N-2A))
- コマール型(ソ連、P-15 Termit(SS-N-2A))
- アンティプ・ロイアロス・ラスコス級(ギリシア、エグゾセ)
- スパルヴィエロ級(イタリア、オトマート)
- ペガサス級(アメリカ、ハープーン)
- アッシュヴィル級(アメリカ、スタンダード対空ミサイルの対艦ミサイル型)
- サール4型(イスラエル、ガブリエル)
- サール4.5型(イスラエル、ガブリエル&ハープーン)
- ストルム級(ノルウェー、ペンギン)