タンホイザー
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タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦(Tannhäuser und der Sängerkrieg auf Wartburg)は、リヒャルト・ワーグナーが作曲した、全3幕で構成される歌劇で、一般的には『タンホイザー』の題名で知られている。演奏時間は約3時間(第1幕60分、第2幕65分、第3幕55分)。序曲、第2幕の「大行進曲」、第3幕のヴォルフラムのアリア「夕星の歌」は、独立してよく演奏される。
目次 |
[編集] 作曲と初演
1843年から1845年にかけて作曲され、1845年10月19日にドレスデンにある宮廷歌劇場で初演された(「ドレスデン版」)。そのときの指揮者はワーグナー本人である。
「パリ版」による初演は、1861年3月13日パリ・オペラ座。
日本初演は1947年7月12日、藤原義江(タンホイザー)、三宅春恵(エリーザベト)ほかの出演、マンフレート・グルリットの指揮による。この興行は全公演とも入場率100%を記録し、現在に至るまでの日本のオペラ公演でこれに及んだ入場率はない。
[編集] 主な登場人物
- タンホイザー(テノール) ヴァルトブルクの騎士。エリザベートと愛し合っていた。
- エリザベート(ソプラノ) ヘルマンの姪
- ヴェーヌス(メゾソプラノ) いわゆるビーナス。ヴェーヌスベルクに住む快楽の女神
- ヴォルフラム(バリトン) ヴァルトブルクの騎士。タンホイザーの友人。エリザベートに淡い恋心を抱いている。
- ヘルマン(バス) ヴァルトブルクの領主
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] あらすじ
中世のドイツでは、吟遊詩人としてうたう習慣が騎士たちの中でもあった。 騎士の1人であるタンホイザーは、ヴァルトブルクの領主の親族にあたるエリザベートと清き愛で結ばれていたが、ふとしたことから官能の愛を望むようになり、愛欲の女神ヴェーヌスがすんでいるというヴェーヌスベルクに赴き、そこで肉欲の世界に溺れていた。
[編集] 第1幕
ヴェーヌスベルクで快楽の日々を送っていたタンホイザーだったが、ある時夢の中で故郷を思い出しヴェーヌスベルクから離れようと決心した。しかし、ヴェーヌスは彼を引き止めようと誘惑するが、タンホイザーの強い意志によってそれを退け、ヴェーヌスベルクを消滅させた。
タンホイザーは、とある谷でタンホイザーの親友ヴォルフラムに出会う。彼もヴァルトブルクの領主の騎士であった。 ヴォルフラムはタンホイザーの帰還を喜び、再びヴァルトブルクの領主の騎士に戻るように進めたが、官能の世界に溺れた罪の重さを思ったタンホイザーはそれを拒否した。しかしヴォルフラムは彼の帰りを待つエリザベートのことを話し説得する。その説得を受け入れヴァルトブルクに帰る。
[編集] 第2幕
ヴォルフラムにヴァルトブルク城までつれて帰ったタンホイザーと、エリザベートは再会を果たしお互いに喜び合う。
ある日、「愛の本質について」という課題で歌合戦が開かれた。 ヴォルフラムやその他の歌い手達が女性に対する奉仕的愛を歌ったのに対し、タンホイザーは自由な愛を歌い、観衆の反感をかい、ついにはヴェーヌスを讃える歌をうたってしまった。 それに激怒した騎士たちはタンホイザーを諌め、エリザベートは領主に彼の罪を悔い改めさせるように願う。 ふと我に返ったタンホイザーは、自分のしたことをくやむが、時はすでに遅かった。 領主は、タンホイザーにローマ教皇の許しが得られるまで、ヴァルトブルクに戻ることを禁じた上で彼を追放した。 タンホイザーはローマ教皇の許しを得るために、ローマ巡礼に加わりヴァルトブルクを去っていった。
[編集] 第3幕
タンホイザーがローマに向かってから毎日、エリザベートは聖母マリア像にタンホイザーが許しを得て戻ってくることを祈り続けていた。 そしてローマから戻ってくる巡礼の行列からタンホイザーを探す日々を送っていた。 いつになっても帰ってこないタンホイザーに、エリザベートは自らの死をもってタンホイザーに許しを得ることを決意する。 これを見かねたヴォルフラムはエリザベートを説得するが失敗し、彼女は去っていく。
タンホイザーは幾多の苦難を乗り越えて、ようやくローマに到着したもののローマ教皇はタンホイザーに対して、罪を許すことはなかった。 途方にくれたタンホイザーは、再びヴェーヌスの快楽を求めるようになり、ヴェーヌスベルクへ向かおうとしていた道中でヴォルフラムに出会う。その話を聞いたヴォルフラムは必死にタンホイザーを引きとめようとしたとき、エリザベートの葬列が現れる。 ヴォルフラムはエリザベートの命と引き換えに、タンホイザーの許しを乞うたことを話すと、エリザベートに寄り添う形でタンホイザーは息を引き取った。
[編集] 版について
[編集] ドレスデン版
1845年のドレスデン初演では、第3幕の終幕部分でヴェーヌスは現れず、エリザベートの亡骸も示されないため、結末について聴衆に理解されず、失敗に終わった。このためワーグナーは、1847年にこの部分をタンホイザーの救済を強調する形に書き直した。この第2稿が「ドレスデン版」として上演されるものである。なお、現在演奏される「ドレスデン版」には、「パリ版」から第1幕のバッカナールの音楽を加えた折衷的なものもある。
なお演奏会で演奏される『歌劇「タンホイザー」序曲』は、一般的にはこのドレスデン版の序曲のことを指す。
[編集] パリ版
1859年にワーグナーはパリを再訪した。このときナポレオン3世によって『タンホイザー』を上演せよとの勅命が降りる。このときワーグナーは、台本をフランス語に訳すだけでなく、音楽にも改訂を施した。主な改訂内容は、第1幕冒頭のヴェーヌスベルクの部分を改訂して「バッカナール」と称するバレエ音楽を加えたことである。これは、当時パリで流行していたグランド・オペラが第2幕にバレエを挿入していたのを意識したものであるとされるが、通例でない第1幕にバレエを使ったために、上演は受け入れられずに大失敗となった。しかし、このスキャンダルがワーグナーへの注目を集め、後にフランスの音楽界や文壇に圧倒的な影響を及ぼすことにつながる。
改訂によって、『トリスタンとイゾルデ』後、より色彩的かつ迫真的なものに変貌を遂げた音楽が盛り込まれたが、このことは『タンホイザー』作曲当時の音楽との様式上の不統一を生じることにもなった。ワーグナーはその後も作品に手を加え、1867年にはミュンヘンで台本をドイツ語に再訳して上演、1875年のウィーン上演に際しては、序曲から切れ目なしに第1幕のバッカナールへ移行する形をとるようにした。これが「パリ版」として現在上演されるものである。これらについて、「パリ版」と「ウィーン版」として区別する説もあり、また、序曲の289小節からバッカナールに入るのが「パリ版」で、序曲を終わらせて8部休符を挟んでパリ版のバッカナールに入るのが「ウィーン版」という見解もある。
しかし、ワーグナーはこれでも満足せず、妻コジマの日記によれば、1883年、死の前月にも「まだこの世にタンホイザーという借りがある」ともらしていたという。
バイロイト音楽祭では、第1幕に「パリ(ウィーン)版」、第2幕以降で「ドレスデン版」を使う「折衷版」が使用されることが多く、もっと細かく使用する版や場の指定を行う指揮者もいる。いずれの折衷版を使用するにせよ、第1幕に限ってはワーグナーの遺志によりバッカナールのシーンが長い「パリ(ウィーン)版」が使われる。
[編集] 題材となった伝説
歌劇『タンホイザー』は主に2つの伝説を元にして製作されている。ひとつは「タンホイザー伝説」で、もうひとつは「ヴァルトブルクの歌合戦の伝説」である。
[編集] タンホイザー伝説
タンホイザーは、ウィーンのバーベンベルク王朝フリードリッヒ2世に仕えていたいう記録が残っており、実在した人物である。しかし放蕩とした生活をしていたとされている。そんな彼が伝説として語られるようになってから、名を馳せることになる。 15世紀に作成された伝説によると、タンホイザーは恋の快楽を知ろうとヴェーヌスの洞窟に1年ほどこもるが、そのことを悔い改めるべくローマ教皇に懺悔する。しかしローマ教皇は自分のもつ枯れ木の杖に葉が生えない限り救済できないと述べた。 そのことを悲しんだタンホイザーは、再びヴェーヌスの洞窟に帰ってしまうが、後日ローマ教皇の杖に芽が生えたことから、タンホイザーの捜索を始めるが、彼を見つけ出すことができなかった。
[編集] ヴァルトブルクの歌合戦の伝説
ヴァルトブルクの歌合戦の伝説は、1207年にヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハのパトロンだった、ヘルマン侯の宮殿で行われた歌合戦である。負けたほうが命を落とすというもので、ハインリッヒ・フォン・オフテル・ディンゲンが窮地に立たされていた。命乞いをしたハインリッヒはハンガリーの詩人であり、魔術師でもあったクリンゲゾールを召喚し彼の魔法の力を利用して勝利をつかもうとするが、相手となったヴォルフラムがその魔法の謎をとき彼を退ける。