スルホキシド
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スルホキシド (sulfoxide) は有機化合物のうち、2つのアルキル基がスルフィニル基 −S(=O)− に結合している一群の化合物を指す。中央の硫黄原子は二重結合で1つの酸素と、単結合で2つの炭素と結合している。"sulphoxide" というスペルも使われたが、IUPACではこれを推奨していない。
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[編集] 硫黄-酸素結合
スルホキシドの硫黄-酸素結合は一般に S=O と書き表されるが、実際には単純な二重結合ではない。硫黄原子がプラスに、酸素原子がマイナスに分極しており、このためスルホキシド結合を持つ化合物は相当するスルフィド・スルホンよりはるかに高い極性を示す。また、S→O という形でこの結合を書き表すこともある。
この図では描かれていないが硫黄原子からは非共有電子対も張り出しており、これも含めれば炭素に似た四面体構造をとっている。このため硫黄原子につくアルキル基が両者違うものである場合、スルホキシドはキラリティを持つことになる。
[編集] 合成
多くの場合スルフィドを酸化することによって作られる。ただし多くの酸化剤ではスルホンまで過剰酸化を受けてしまい、スルホキシドで止めることは意外に難しい。過ヨウ素酸ナトリウムなどを用いると比較的収率よくスルホキシドが得られる。
またスルフィン酸のエステルに炭素求核剤を作用させてもスルホキシドを得ることができる。スルフィン酸メンチルエステルを用いれば、キラルなスルホキシドが得られる。この他、シャープレス酸化の条件でスルフィドを不斉酸化することで、高い光学純度のスルホキシドを合成できる。
[編集] 反応
スルホキシドの硫黄原子は正に帯電しているため、隣接する炭素上のアニオンを安定化する。このためスルホキシドにブチルリチウムなどの強塩基を作用させると隣接する炭素上のプロトンが引き抜かれ、カルバニオンを生成する。ここに求核剤を作用させれば炭素-炭素結合を形成することができる。
またスルホキシドの酸素原子は負に帯電しているため、酸塩化物、酸無水物などを作用させるとO-アシル化された中間体を生ずる。これは転位反応を起こし、α-アシロキシスルフィドを生じる(プンメラー転位)。またこうして発生させた活性な中間体は、アルコールの酸化反応にも応用される。項目スワーン酸化に詳しい。
スルフィニル基は、用が済んだ後はラネーニッケルなどを作用させることで還元的に除去できる。またβ位に水素を持つスルホキシドを加熱するとsyn脱離が起こり、オレフィンを与える。この反応は特にカルボニル化合物からα,β-不飽和カルボニル化合物を合成する際によく用いられる。
スルホキシドのキラリティを活用した不斉反応の開発も進められている。