エマルション
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エマルションとは
エマルションは、溶質溶媒が共に液体である分散系溶液のこと。乳濁液ともいう。木工ボンド、アクリル絵具やマヨネーズが代表的な例としてあげられる。分離している2つの液体をエマルションにすることを乳化といい、乳化する作用を持つ物質を乳化剤と呼ぶ。
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[編集] 両親媒性物質とミセル
ミセル:他の言語へのリンク
一般に、水と油の様に相互に交じり合わない液体は、液滴状に分散しても界面張力が大きいために液滴が合体することで界面の表面積を小さくする作用が働く為に最終的には2つの層に分離する。
分子構造のある部分と異なる部分が交じり合わない溶媒に対して親和性を持つ物質を両親媒性物質と呼ぶが、この分散系に両親媒性物質物質を添加するとこの物質がそれぞれの溶媒に配向するように界面を覆い尽くすように分布する。
物質が層状に分布している構造をミセル(micelle)と呼び、このように両親媒性物質が界面にミセルを形成すると液滴の分散系が安定化する。
この両親媒性物質が分布することにより界面張力は低下し、特にイオン性物質の場合は電気二重層を形成して液滴間に静電反発力が働く等、界面を保護するように作用する為、分散系の液滴は安定化する。
たとえば石鹸など陰イオン系界面活性剤は疎水性基を油滴側、カルボキシレートアニオン基を水側に向けて界面に配向することで油を水に可溶化する。一方、カルボキシレートアニオン基の負電荷は分極した水を引き付け、アニオン電荷と分極した水の電荷から構成される電気二重層を形成する。これにより油滴表面には同種の電荷が存在する為に油滴同士は反発し、エマルションは安定化する。
[編集] 臨界ミセル濃度
ミセルを形成する為には界面に一定量以上分布する為に両親媒性物質(界面活性剤)が一定濃度以上存在する必要があり、ミセルを形成するのに必要な最低限の界面活性剤濃度を臨界ミセル濃度(略号:CMC)と呼ぶ。この値が小さいほど界面活性剤としての能力は高い。
[編集] 乳化剤
乳化剤(にゅうかざい、emulsifier)とは安定なエマルションを形成する為に添加される両親媒性物質であり、一般には化学品の両親媒性物質である界面活性剤が用いられる場合が多い。 食品用、化粧品用、工業用といった用途に合わせて様々な種類の乳化剤が存在する。
たとえば、マヨネーズにおいては、卵黄の脂質(リン脂質やステロール類等)が界面活性効果を表すし、牛乳に置いては乳タンパク質が働くことで安定なエマルションを形成している。
[編集] 水-油系エマルション
水-油系エマルションを形成する場合、油滴が水に分散する水中油滴(O/W型)エマルションと油中水滴(W/O型)エマルションのいずれかの構成をとる。これは乳化剤の親水性と親油性の強度がどの程度であるかという性質によりどちらの状態をとり易いかは影響されるし、温度変化などによってO/W型とW/O型との間を移り変わる転相と呼ばれる現象も見られる。
[編集] 親水親油バランス
乳化剤(界面活性剤)の親水性と親油性の相対的強度を表す指標として親水親油バランス(HLB値)が用いられている。HLB値が大きいほど親水性が強度が強い。乳化剤のHLB値が大きいと水中油滴(O/W型)エマルションを形成しやすく、小さいと油中水滴(W/O型)エマルションを形成しやすい。
[編集] ショ糖脂肪酸エステル
乳化剤の代表格の一つ。毒性もないためアイスクリーム、豆乳、マーガリン、パン、チョコレートなど様々な食品に使われる。また、ショ糖脂肪酸エステルは乳化剤と呼んでいるが、単に乳化作用を示すだけでなく粘度調整、食感改良、抗菌作用、冷凍変性防止など様々な効果をもっている。