イスラーム過激派
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イスラーム過激派(-かげきは)とは、日本語においては、イスラームの理想とする社会の実現をはかるために犯罪を行う戦闘的な組織を総称するために用いられている用語である。日本を含め、国際的にはこうした組織は「イスラームの名をかたって主張を実現するために犯罪を実行する過激派(Militant)」とみなされている。
アメリカは、イスラーム過激派を「イスラームの名をかたり、大量殺人など犯罪を計画・実行する過激派団体」と規定される複数の団体を指す表現として用いており、本項では主にこれを指して述べる。
[編集] 特色
「イスラーム過激派」は、伝統的にはイスラームの理想とする国家・社会のあり方を政治的・社会的に実現しようとする運動であるイスラーム主義の中から生まれ、現代社会の中でイスラーム的な理想の実現にとって障害となっているものを暴力によって排除しようとする人々の運動であると考えられる。
冷戦終結によりソビエト連邦が消滅した結果、現在「イスラーム過激派」の主たる排除対象となったのはイスラエルであったり、アメリカ合衆国であったり、これらと結んだり妥協したりしたためにイスラーム過激派の価値観に照らして「背教者」と認定されたムスリム(イスラーム教徒)であったりする。
彼らは、個々人が結合した団体を組織するが、最近の傾向として「草の根テロリズム」という言葉が使われるように、プロデューサー、ディレクター、テクニカルアシスタント、リクルーター、ソルジャーなどの役割ごとのゆるやかなネットワークで結ばれた人々からなっていると分析されており、こうした人々は中東のイスラーム社会のみならず、欧米まで含めた世界中に存在するムスリムの中に溶け込んで活動していると考えられている。現在、ムスリムの社会の間では、個々人や地域によって程度の多少はあるものの、反アメリカ、反シオニズム(反ユダヤ主義ではない)などの漠然とした感情があるとされ、分析者たちは、過激派はこうした感情を背景に浸透しているとみている。
[編集] イスラーム過激派とイスラム原理主義
「イスラーム過激派」は、日本などでは「イスラム原理主義過激派」という呼称がなされることもある。
「イスラム原理主義」とは、イスラーム共同体を預言者ムハンマドが共同体を創設した時代の原初の理想的な姿に回帰させることを志向する様々な運動や主義主張を指して欧米や日本などの非イスラーム社会で用いられる用語である。
日本では「イスラーム過激派」は「イスラム原理主義の過激派」であるという理解が一般的に広く浸透している。一方、イスラームの研究者やムスリムの間には「イスラム原理主義」と「過激派」が結び付けられることにより、イスラームと過激思想が本質的に結びついたものとみなされることに対する批判的な見方があり、「イスラーム過激派」と「イスラム原理主義」を厳しく弁別する考え方がある。
こうした言説の背景には、過激派の活動はイスラーム上根拠がないという主張がある。例えば、コーラン(クルアーン)では正当な位置づけのない殺戮は、大義のない犯罪であるとして禁止されているとする。また、エジプトやトルコなど、無差別のテロが穏健なムスリムの間にも犠牲者を出した例も少なからずあり、多くの敬虔なムスリムは過激派をテロリストとみなして異端視している。
一方、イスラーム社会の中では、反米・反イスラエル的感情の高まりを背景として、9.11等のアメリカやイスラエルを標的とするテロに対する同情があることもしばしば報道されている。