アーチ
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アーチは、中央部が上方向に凸な曲線形状をした梁、もしくは上方向に凸な曲線形状そのもの。
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[編集] 概要
梁の2つの支点間を長く取ったり、カーブの曲率を上げて高く大きな下部空間を得ることが可能であるため、大スパンを掛け渡す橋や、大きな開口部を持つ壁を造る際に使われる。アーチ形状の構造物内では、鉛直方向の荷重の大部分の力は圧縮力であり両端の支点まで伝えられる。これは、大部分が曲げモーメントとせん断力として力が伝わる直線形状の梁と対照的である。したがってアーチは、圧縮力に強く、せん断力や引張力(曲げモーメントは構造物内に引っ張り力を引き起こす)に弱い組積造の構造物において特に有効であるといえる。
西洋に残る建築物の多くは石造、すなわち組積造であるため、技術としてのアーチの発展は、建築史を語る上で非常に重要な要素である。アーチは古代エジプト、バビロニア、ギリシャ、アッシリアなどで古くから使われていたが、その多くは地下の構造物であり、地上において大きく発展させたのは古代ローマであろう。ユゼスの湧き水を50km離れたニームにまで運んだアーチ橋ポン・デュ・ガールは、古代ローマ人がアーチの効果を深く理解していたことを示すものであると言える。また、コロッセオではオーダーと組み合わせることで、装飾的な外壁を生み出している。
アーチは2次元内に収まるものであるが、これを3次元に展開したものがヴォールトとドームである。ヴォールトはアーチに属する平面に垂直な直線上を移動させた際の軌跡が描く立体であり、ドームはアーチの対称軸周りにアーチを回転させた際の軌跡が描く立体である。いずれも大きな空間を、組積造にて実現するには欠かせない技術である。
[編集] アーチの構造
アーチの力学的効果は、その形状が完成してはじめて得られるものである。つまり組積造のアーチの建設中においては、アーチ下部を支保工にて支えて施工しなければならない。そして最後に楔状の石を、アーチ中央部に上から打ち込むことによって、アーチ構造が完成する。最後に打ち込むこの石をキー・ストーン(楔石、要石)といい、組積造ではないアーチにおいても、これをモチーフとした装飾を見ることができる。
[編集] 擬似アーチ
擬似アーチとは、図のようにアーチ部分の石を水平に少しずらしながら空間を得る構造である。迫り出しアーチとも呼ばれる。ただし力学的にはアーチと異なる。
クメール様式で知られるアンコール遺跡に残る遺跡に数多く見ることができる。