アカパンカビ
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アカパンカビ(学名: Neurospora crassa)は、子嚢菌門に属する糸状菌の一種。モデル生物としても重要である。
[編集] 特徴
アカパンカビは、子嚢菌門核菌綱(Pyrenomycetes)タマカビ目(Sphaeriales)ソルダリア科(Sordariaceae)に属する。小さな球状の子実体を作る子のう菌の1種である。
アカパンカビ(red bread mould)の名は、分生子が赤みを帯びているため。したがって、和名そのものは不完全世代に与えられたものである。
通常の分生子は分節型で、この形のものは不完全菌としてはMonilia属に含まれる。気中に伸び、枝分かれした菌糸が、寸断されるようにして、個々には楕円形の分生子の鎖になる。寒天培地上では非常に素早く成長し、直径10cmのシャーレが一日でいっぱいになる。菌糸は主として寒天表面か気中に伸びて、ふわふわとした姿で、すぐに分生子を形成するので、全体に赤みを帯びる。
同株不和合性なので、好適な株同士が触れあったときのみ子実体が形成される。
子実体はほぼ球形で、上の端がやや突出して、その先端に内部への入り口が開く。内部には細長い子嚢が束になって入っており、子嚢内には子嚢胞子が八個入っている。
[編集] 利用
古くから遺伝学の研究に用いられている。これは以下の特徴によるものである。
- 培養が簡単であること。
- 栄養要求がごく単純であり、その分析が容易であること。
- 子嚢が細長く、内部の胞子が一列に並ぶことは、減数分裂によって分かれる遺伝子型の異なる胞子を、遺伝子型を特定しつつ選択的に取り出すのに好都合であること。
- 分生子にX線を照射して突然変異を誘発するのが簡単であること。
特に突然変異株の栄養要求の研究は一遺伝子一酵素説の基礎となり、遺伝子の機能やその実体の解明への糸口となった事は有名である。最も最初にゲノム配列が読まれた糸状菌でもある。
他方、分生子がよく空中を飛散し、分生子形成や成長も早い性質は、微生物培養においてはやっかいなものである。望まない場合にこの菌が侵入すると、あっという間にあちこちの培地に侵入し、しかもすぐに広がって分生子をまき散らすので、もっとも恐るべき雑菌の一つである。ある大学の菌類学研究室では、この菌を持ち込んだものには罰金が科せられていた。
[編集] その他
ヨーロッパではごく普通に出現するカビである。非常に成長が早く、分生子形成も素速く行なうため、一夜にしてパンが全体に薄赤く染まる、といった現象を引き起こす。また、子のう胞子が熱を受けると発芽しやすくなる性質があるので、たき火のあとなどに発生することも多く、パン工場なども発生が多い。日本では出現頻度は高くない。